ヒトラーの映画を観た



 ヒトラーの映画を観てきた。アレクサンドル・ソクーロ
フの撮った『モレク神』。ヒトラーが山荘に愛人エバ・ブ
ラウンをナチス幹部とともに訪ねるという設定の劇映画で
ある。その数日間のヒトラーとエバ・ブラウン、ナチス幹
部の生活をドキュメンタリー風に撮ってある。絶対悪ヒト
ラーの類型をはなれようとしている映画である。類型を破
りきってはいないが、ヒトラーとエバ・ブラウンの関係が
語られ、二人がベッドにいるシーン、ドタバタのケンカ、
ヒトラーのキス・シーン!になりそうな、ドキッとする場
面がでてくる。政治家で権力者のヒトラーから離れ切れな
いが、これはヒトラー本人がそういう人間なのだから仕方
ないのかもしれない。もっと大胆でもよかったと思う。完
全無欠の悪人では思考停止とおなじだからだ。モレク神と
は古代の神のことらしく、ソクーロフはインタビューで、
「モレク神とは、人々が偶然陥り、そこから自らを解放す
ることができない深い貧しさの記号です。」と説明してい
る。この映画で特徴的なのは最初から最後までつづく、薄
い霧がかかったような青い暗い色調の映像だ。これが残る。

 久しぶりに阿佐ヶ谷に行くことができた。阿佐ヶ谷にあ
るラピュタ阿佐ヶ谷という映画館で上映していたからだ。
阿佐ヶ谷はすっかりきれいになった。ぼくは歩き、商店街
のなかの喫茶店にはいった。




■初出 「Zwar」(ツヴァール)1号 2001年5月発行