場 所



今日は明るい
日が差している
桜の葉がかすかにゆれて
目の前のビルの窓が日をはねかえしている
この街に暮らすことになった10月
あきらめた
ホッとした
300グラムのコーヒーの豆を買った

世界を回って
もとの街にもどったような気分で
店に入る
街の風景が新しい
ぼくの心は変わらないけど
ぼくの身体は変わった
というところか

前と同じ窓ぎわの席
木の椅子と
木のテーブル
窓の外を
緑の葉がふさいでいる
街はしずかでおとなしい
何が聞こえるのだろうと耳をすます
人たちの話し声が聞こえてきて
カップのあたる音
「ありがとうございました」
「いらっしゃいませ」
見たことのある顔が
アイスコーヒーを前かがみで飲んでいる
今日は急に晴れた
街は秋の日だ
この場所は
夏の声の跡が
何もない



初出誌 「Zwar」1号 2001年5月発行