窓 を 向 い て



フィルムを現像屋にわたして
選挙アナウンスの響きわたる
喫茶店の二階にやってきた
窓は半分ひらいて 緑の葉だけがみえる
光がたまっている

葉ですべてふさがれていて
向こうの景色はみえない
みえない開いている窓
駅前の通りが葉の向こうにある

日曜日の声のあふれる 喫茶店
二十のテーブル 五十のカップ
四十の椅子が微妙に動いて
五つの灰皿
その一つがぼくのテーブルにおいてあって
二本の煙草が消されている
セックスのことを書いてある女の本
戦後の古いホテルのことを書いてある男の本
外はすべて緑でふさがれている

ふつうという日曜日
ふつうの声と声
外はみえないから
この喫茶店の客のひとりひとりの動きをずっとみつめていて
ながめる
静かというふうに思った
静かでもいい
葉だけがゆれて ぼくの眼は思い出さない

まったく動かない前の席の女の髪が
突然エアコンに吹かれて動く
それからとなりの席にすわっていた女がテーブルをきれいにふいた
すべて片づけて
出ていく



初出誌 「詩学」9月号 2001年9月発行