何 も 起 こ ら な い け れ ど そ れ で い い
五つの森のような
木が並んでいて
葉が
ふるえるちいさな手にみえる
六月の木曜日の
テーブルのある喫茶店の二階
「葉が光のようにみえた」と思いながら
煙草を吐きだしている
木の葉で
埋めつくされ
他のものは
みえない
話し声が
きこえるだけ
「クレッセント」ではない
管の高い音が響いてくる
人形のような彫刻が
目をくりぬかれたような
彫刻が
大きなものと
小さなもの
ぼくは
何も起こらないけれど
それでいい
小さな風が
ペンキの色の森をゆらしている
煙草を消す女
PHSをみる女 コーヒーを赤いくちびるで飲む女
もっと強い風が 五時前の
この街を通りすぎていく
考えることはない
テレビをつけて消すような
ぼくの今日のスイッチ
かんたんになった
目の前でゆれる
濃い緑の
曲線の集まり
窓の
心臓のような
小さな葉がみえる
初出誌 「詩の雑誌 midnight press」9号 2000年9月発行