妖 怪 た ち の 物 語
妖怪たちは
喫茶シャンブレットで
麦茶をあたためていた
あつい あつい
外は あつい
ただ一滴の夕日
ただ一滴の水
ただ一滴の風
通りがかる通行人の日に焼け残った赤い手首
妖怪たちのストックは底をついている
右目でみても
左目でみても
窓から赤い太陽は輝かない
古道具屋から 希望のコインが出てくるわけではない
秋の桜の木の間から 桃色の神が出てくるわけではない
ぼくたちは
底をついている
ということよりも
ぼくたちは
もう
秋がつらい
目の呼吸がからだをいやしている
長い喫茶店の午後
ニガブレンドと
カゼブレンド
スーパー「さえき」で
魚を買って帰らなかったとしても
目の呼吸だけが外をみている
「あなたのそれって、絶望のことよ」
カルキはそう言った
「そうだね、そうかもしれない」
芝居は芝居でしかないし
テントはテントでしかない
それは終わるってことだろう
きみたちがいつも言いたいのはそのことだ
電車に乗ると見知らぬ妖怪たちが
窓ガラスにくっつくように顔をだす
すべてのコーヒーは苦く
すべての風景は苦く
ぼくたちはまたも言われたよ
お前たちはまぼろしだ
お前たちは夏の夜の夢
お前たちは錯覚だ
すべては終わる
すべては変わらない
暗くなり出す前の空 そんなこと言われたよ
初出 「アルケ カムイ ネ」2号 1995年5月発行