Apr 02, 2021
探偵の思い出したこと

さわやかな朝の光がやわらかい。
探偵は階下のコーヒーショップにいるようだ。

二階が事務所で、
一階が喫茶店というのは、
探偵稼業にうってつけの設定かも。
と探偵は思っている。

ウエイトレスは、熱心に、
店のマスコットのペンギンを拭いている。
あのひと、もしかして、あの有名な。
とマリーネが探偵に小声で囁いた。

マリーネにいわれて、
探偵が視線を店の奥にむけると、
そこには、元大リーガーの
アントニオ・ロドリゲスが座っていたのだった。

探偵はちょっと遠い目をして、
かっての彼の勇姿を思い浮かべた。

探偵には、球場に通うほどの、
ロドリゲスのファンだった時期があったのだ。

とりわけ2008年は、ロドリゲスが、
驚異的な連続ヒットを更新し続けた年だった。
あれから、もう13年もたつのか。

そういえば、当時部屋に飾っていた、
ロドリゲスのプロマイドは、
今回、捜したけれど見つからなかったなあ、
とも思った(^^;)。

その年の春は、連続ヒットを伝える実況をラジオで聞きながら、
記録ファイルを残すためにタイプを打っていた。
そのファイルに登場して、一度言葉をかわしただけで、
忘れがたい印象を残した、ディアンという女性のことも、
ふと思い出した。

そのあと、探偵はコーヒーを飲み終えると、
足の故障のために引退したといわれている、
元大リーガーに声をかけることもなく、
事務所にもどったのだった。
解説)
今回は再掲画像が多いので、
編集作業的には、さくさくとはかどりました。
ここはアメリカだったのか、
などと考えすぎないように(^^;)。
ディアンの登場する記録ファイルについては、
「人形日記」の2008年4月24日「ディアン そのいち」から、
5回シリーズで掲載されています。
Mar 02, 2021
再会

ストーブのある部屋には、
暖をとりにいろんな人がやってくる。

そういえば、覚えているかい。
あれもこんなに雪の積もった日のことだったな。
みんなで雪だるまを作ったっけ。
そのあと、雪合戦をして。。

文学青年はその男の顔を見ていて、
ぼんやりと思い出した。
なんと、はるか13年前。
この町に来て間もない頃、
雪合戦をしていて、
顔に雪玉をぶつけてしまった相手は、
この人だったのだ(^^;)。

あれにはまいった。
といって、男は笑った。
このシーンにも既視感が。。
文学青年は、よく覚えてるなあと、
感心したのだった。

そういえば、
この女性も、
どこかで見覚えがあるような。。

私の顔に、
なにかついてる?
女性はさっと身構えるような動きをして、
文学青年のほうに振り向いた。

女性の顔を正面から直視したとき、
文学青年はすべてを思い出した。
なんと、はるか12年前の1月の末。
その日、白日夢に現れた花魁姿の女性と、
そっくりな顔立ちの女性を、
ペンギンでみかけて驚いたことがあり、
そのときの不思議な体験の記憶が、
目の前の女性の顔にぴったり重なって
鮮明に蘇ったのだった。

文学青年が非礼をわびて、
率直にことのいきさつを話すと、
聞いていた女性は納得したようだった。

ちょうどその頃は、任務もかねて、
毎日ペンギンに通っていたから、
あながち作り話じゃないみたいね。

任務、と聞いて、
文学青年ははっとした。
さきほど身構えた彼女がとっさに、
手をのばしかけていた机のうえには、
ホルスターに収まった拳銃が、
無造作に置かれていたのだった。

それから2人はしだいにうちとけ、
隣で聞いていた雪合戦の人も加わって、
当時のペンギンのことなど、
あれこれの話題に花をさかせて、
夕暮れから夜になるまで話し込んだ。

私はある組織に所属しているの。
もしあなたみたいに自分史を書いたら、
たぶんすごく長いものになると思うわ。
そういうと、その女性は一瞬遠い目をしたように見えた。

仕事柄、忍び込むのが得意だから、
夢でまた会えるかもしれないわね。
と言って、別れ際に悪戯っぽく笑ったのだった。
解説)
2008年2月4日「雪の公園で」
2009年1月30日「はるまつゆめ」
のエピソードが盛り込まれています。