Jul 01, 2007
平井弘之
平井弘之の詩集『小さな顎のオンナたち』を読む。32編の詩。平井弘之自身の与えるイメージよりも骨太の詩を書く。中間的な軽めのリズムが安定感をつくる。ぼくのいちばん気に入った「赤と青のマント」を全行引用で紹介したい。
赤と青のマント
パン屋で働いたことがある
口笛を吹きながら
調理パンを売るのが好きだった
出勤のとき昼食を買ってゆくOLのひとりに
青と赤のマントを着せていた
それは一九七三年の絹のマントで
パンを買ってくれるたびに
口笛で『You’re So Vain*』を
彼女のために奏でるのだ
あと一回買いにきたら
ジャズ喫茶「KISS」に誘おうと思っていた
もちろん彼女を誘えもせず
あと一回あと一回と朝は過ぎた
腰を捻らせて口をとがらせて
ウォンチューウォンチューと吹くのだが
マスターは売り場にあらわれ
厨房へ小麦粉を運べと指図したあとに
唾を飛ばすなと云ったのだった
*『You’re So Vain』邦題「うつろな愛」(唄Carly Simon)
(2006年6月 ミッドナイト・プレス刊)
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