投稿の詳細: 長尾高弘詩集『右向け右』(2005年4月6日発行)

2007/10/20

Permalink 01:11:02, カテゴリ: memo, views: 1703 Japanese (JP)

長尾高弘詩集『右向け右』(2005年4月6日発行)

 この詩集は、先日、『石並べ』と一緒に送られてきた詩集で、『石並べ』から2年後の発行となっている。ホームページ上に掲載されて読んだような記憶があるが、読まなかったようにも思えて、今回、プリント詩集として送られてきて、初めて読んだと言う印象だ。『石並べ』の詩は悩んでいる気分が伝わってくる、ちょっと暗い感じだが、この『右向け右』にはやや自虐的にはあるが、自分のことを語る詩があったりして、広がりが出て明るく感じられる。そして、最近発行された『人類以外』に通じる道が見える。自分の感情を詩に託すのではなく、詩を書くことを楽しもうという道が始まる詩集といえるのかも知れない。
 この詩集のプリント版もA4の用紙を縦に使って、36行3段組で7ポイントの小さな字で印刷されている。20篇の詩と後書きで構成されていて、詩について触れている詩が三つあり、特に「怪しげな封筒」と題された散文の作品には「反抒情詩宣言」という行分け詩が引用される形で書かれている。これは、『人類以外』の自分が「抒情詩を書いていることに気付かなかった」と述べている「抒情詩試論」という作品に通じる。それは、テーマ的に捉えれば、生活者としてどういう詩を書けばいいのかという問題を提起しているともいえる。
 「怪しげな封筒」の中の「反抒情詩宣言」と題されたマニフェストには、
 
でも、優れている思いを語ろうとする限り、
自分よりも思いが優れていない人がいることを、
前提としなければなりません。
そういうのすごーくやなんだよねえ。
ですから、私たちは抒情詩とは関わらないことを、
ここに宣言いたします。

 というところがある。詩集の最初に置かれた「秋という季節に」は、自分自身について述べている詩だが、
 
四十過ぎて、
妻子抱えて、
失業寸前だというのに、
詩なんか書いて、
馬鹿もいいところだよ。

と詩を書いている自分を否定して、「ただ何の取り得もないだけだということに気付いて、/何も書けなくなるはずだ」と居直って詩を終わらせている。
 「優れた思い」もなく、「何の取り得もない」者はどういう詩を書けばいいのか、ということで、幾つか試みに書いた詩を収録したのがこの詩集といえるようだ。
 詩集のタイトルのなっている「右向け右」という作品は、西の国と東の国の隊長が兵隊にそれぞれ「右向け右」と号令を掛けて、互いに撃ち合って、死ぬ者は死に、生き残る者は生き残るというという内容で、言葉を形式的に使って、右傾化する社会に対して傍観者の皮肉を語っている。また、「小学三年算数国語社会理科」という作品は試験問題の形式を取って、自己追求の矛先をはぐらかすものとなっている。生活意識にある疎外感の表明を、言葉を形式的に使うことで、距離を取って、その余裕を楽しむという詩のあり方が実現されているわけである。しかし、この詩集の最後に置かれた「飲酒習慣」は、睡眠薬を呑むより酒を飲んだ方がいいと、家での飲酒が習慣になったということを語る詩だが、病気や個人的な習慣を語るということで、「優れた思い」もなく、「何の取り得もない」者でも、個人としては固有な存在だという実存を語り出している。この詩集の最初の詩の言葉に戻ると。「馬鹿に磨きがかかって」「自分の馬鹿さ加減ににやけて」、ついに長尾高弘風に詩を書く楽しみを見つけたということだ。それが『人類以外』では独特のユーモアとして実現されているといえる。

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