若い独身女性の生活と真情が、自分の生きる方向性を予感するところまで、工夫した言葉遣いで語られている十九編の詩を収めた103頁の詩集。生活と真情を語るといっても単に思いを述べるというのでなく、生活していて出会った場面や情景の中に自分を置いて、人々の姿や物事や事柄に比喩的な意味合いを重ねて、自分の真情をうきぼりにして、読者に手渡す。
最初の詩「いつも一緒」では、朝、パパと手を繋いで坂道をスキップして歩いていく幼稚園児、犬と一緒に散歩する老人、そして「私」は一人でヘッドフォンから流れる音楽と一緒だと語って、それぞれの姿と比べて、自分が現在置かれている自立しているがちょと寂しい人生の位置と気持を感じさせるように語りを展開している。
二番目の詩「タイムカード」では打刻に向かって走り追いかけるが、それがそのまま競争社会の生活態度や思いの持ち方の比喩になる。三番目の「ファンデーション」では化粧室で開いたファンデーションが砕けてしまったという小さな事件で、ファンデーションで自分を新しくするかどうかの問題が浮上してくる。「ココロとカラダ」では、夕飯を食べに行った定食屋でいろいろ人たちの間を通り抜けて「窓側のカウンターへ/お一人様の/特等席」に座って、窓ガラスの外の通過する人や車を見ているうちに、食べた料理の肉も野菜も通り過ぎてしまい、ココロが遊離して、カラダはその器になって空の器のままで電車の終点まで行って、ココロを呼び戻したと語られている。読者として敢えて言えば、大衆社会に生きて自分の人生をどう生きればよいかを、語られる言葉の裏側で探していると言える。
十三番目の詩「ゆらゆらの日」には、空に引かれた飛行機雲を見て、突然不安に襲われた時、孤独な時間を過ごすことで、自分の手で言葉を掴んだということが語られている。勤めを休んで、部屋に引きこもって詩集を読んでいると、その言葉が水のように部屋を充たして、自分がゆらゆらと浮き上がり、管理されたプールで泳いでいる想像に身を任せて、監視員の制止を破って飛び込み泳ぎ切ると、足が立たないが、このまま外にも自由に泳いでいけるという気になれる。水から上がると、その手のひらに言葉が残っていた。と語られている。言葉を生きることを見つけたというわけだ。
詩集の題名になっている「色トリドリの夜」という言葉が出てくる詩「振替乗車」は、勤めの帰りに乗っていた電車が急に不通になって別の路線の電車に振替乗車することになり、どの路線を取ればいいか、損得を勘案していろいろと考える、その路線を電車の色で語る詩なのだが、最後に「振替」ということを自分の人生のことに振り替えて語り終わる。「振り返られた私は/好きな色で塗り替えていく/黒く光る道を/緑でぬろう (稲穂がいざなう/青でぬろう (出航だ!/一歩踏み出せば/つま先から色が広がっていく//色トリドリの夜//いいえ、私は振り替えられていない/誰にも頼らずにこうして歩いている/塗り替えられたその先へ/私が歩いていく」
「あとがき」に一節に、次のように書かれている。
「詩は私の中から浮かんできた言葉に耳を傾けながら書いてきましたが、どこかで過去のワタシから変わりたいという思いが芽生えてきていたのでしょう。どんなに暗い夜でも、一歩踏み出せば色トリドリの道がひらけるのだと、詩の中で気づけたから、またここから新しい旅に出てゆけそうです。」
この「新しい旅」というのは、準備中の「Poem & Reading Cafe 中庭ノ空」のことだと思う。五十嵐倫子さんからは、以前から、詩集が置いてあって、朗読会などを開ける「ポエカフェ」を開きたいという話を聞いていた。彼女のmixiの日記には、コーヒーや料理や経営の講習を受けに行ったりしたことや、店を開く場所を探していろいろな街を歩いたりしていることが書かれている。ということは、五十嵐さんの「ここから新しい旅」というのは、詩を書くだけでなく、詩を書く人が集まってきて詩集を読んだり朗読したりする場所を実現するということなのだろう。それは、詩が多様化した時代に、「色トリドリの」詩を一つのところに集まって受容できる現実の場所を持つということだ。詩を書く者が集まるところは同人誌だが、五十嵐さんは詩を読む人たちが集まる「ポエカフェ」を作ろうというわけだ。確かに、色トリドリの道がひらける「新しい旅」の始まりだ。詩を書くことから、詩の現実的な空間を拓く旅だ。「Poem & Reading Cafe 中庭ノ空」の開設と新たな詩の展開を期待する。
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