蓮の花開かんとして茎動く 滝沢伊代次
かすかな痛み 夏の夜の開花
茎は花をささげ持ち
水の浮力が神の掌となり
しずかに水輪が揺れ
一音の楽器を鳴らす
(Photo by KIRI)
十薬は群れて地の星自閉癖 鍵和田秞子
夕闇の道端に灯る星の花
かすかに匂う薬草
今年もまた出会えたね
明日から一人旅にでる
君にだけ伝えてゆく
(Photo by Garakutabako)
昏れんとし幹の途中の蝸牛 桂信子
あなたは途方にくれている
はらはら 雨が降る
はらはら あなたのことが気にかかる
日暮れは近い
傘さしかけて 離れられない
花葵雨中に夢の像(かたち)見て 藤田湘子
雨期の空の下
わたくしは窓辺で頬杖をついている
花葵は立ったまま夢をみている
花そのものが
夢の像だと気づかずに
黒き赤き桑の実散らし風騒ぐ 堀古蝶
六月の風が騒ぐ
桑の実は
それぞれの重さで
それぞれの成熟の時間を生きる
風が時間を急がせることはできない
(Photo by KIRI)
星割れて天道虫の離陸せり 稲畑廣太郎
ちいさきもの 着地の幽き音
離陸の音は星の割れる時に聴こえる?
はるかな音
身じろぎもせずに耳をすます
二人ぼっちだね
白百合や銀の秤が吾子の手に 中村草田男
真白きいのち
香りたかいちいさなものよ
銀の秤は誰から授かったのか
この貧しい母のもとに
産まれおちたというのに
姫女苑しろじろ暮れて道とほき 伊東月草
夕闇の道を歩いている
川面の漣は過去の時間へ寄せてゆく
川辺の白い花も過去に向かって揺れている
温い風をゆっくり切り裂きながら
我が身を入れ 背後で閉じる
未央柳雨に散りしよ旅装解く 矢野黙史
季節はめぐりくる
ひとの旅立ちを見送る
わたくしはここに残る
解けない思いは堆積する
雨したたる るるるるる
かるの水尾ひろがりて傘重くなる 村沢夏風
かるがもが水輪のなかにいるのか
あるいは水輪を生むのか
しずかな水面に際限もなく広がる
雨が降る
水面は乱れて 傘は重くなる
蜜蜂は蕊粉にむせて飛び立たむ 高田昭子
蜜蜂は仕事をしらない
蕊粉にまみれて
異性の花へ移り飛ぶ
おまえの糧は甘いのか
むせるほどに
両の手は翼の名残青嵐 掛井広通
大きく育った欅よ
あなたのすべての枝は
空に差し入れられています
風吹く日には翼になり
おだやかな日には空を抱く
蜜蜂は光と消えつ影と生れ 林 翔
捉えられない実像は
影から生まれて
うつくしい像をつくる
雨あがり
まだ翅は重たいのでせうか
夏の川一日を一日として流る 高田昭子
真上にある陽が
西の山陰にかくれようとする時まで
あの川辺を歩いたのはいつだったのか
小さな夏の旅
ふたたびの旅はない
産土の神に差し出す児の重さ 高田昭子
海と山のある町
児を抱いて
紫陽花の咲く神への階段を登る
振り返れば見えるでしょう
いつかその小さな足で立つ産土
バラ散るや己がくづれし音の中 中村汀女
薔薇が音もなく散る
わたくしの内部で
なにかが音をたてて崩れていった
その音は誰にも聴こえない
途絶えることなく季節は更新される
あぢさゐの花より懈(たゆ)くみごもりぬ 篠原鳳作
花は重さに耐えて咲く
ひともまたいのちの重さに
ひとすくいの祝福
雨に洗われた空がみえる
なにかを愛しすぎたのだろうか
うきうきとキリンの洗濯惑いかな 高田昭子
雨季 雨期
憂き 愛き 浮き
青いキリンは惑う
これは肉体の洗濯か
洗濯日和とはいえない午後に
(Photo by KIRI)
飛ぶ翅ををさめてよりの天道虫 稲畑汀子
飛翔をやめてより
ひかる球体となる
雨粒の重さ
ひかりの熱さ
無口なちいさきものよ
噴水の頂の水落ちてこず 長谷川櫂
引力の法則
噴水の頂上は脱出成功できたのだろうか
水の幻想の外では
烏が水浴びをしているではないか
ああ たくさんの人間の見上げる視線のなか
高田昭子のb2evolution blogです。
吸殻山383番地の家に戻る。
中央1番地に戻る。
日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 |
---|---|---|---|---|---|---|
<< < | > >> | |||||
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 |
15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 |
22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 |
29 | 30 |