杏
わたしは杏が大好物。先日、哈爾浜の旅について書いたが、父母の暮らした家のまわりには杏の樹がたくさんあったそうだ。わたしたちが訪れた時は、近くには大きなアパートが建っていて、果樹園の形跡はまったく見られなかったのだが……。室生犀星の小説「杏っ子」は有名だが、彼の「哈爾浜詩集」のなかには「杏姫」という詩がある。
杏の実れる枝を提げ 髫髪(うない)少女の来たりて たびびとよ杏を召せ 杏を食べたまへとは言へり。 われはその一枝をたづさへ 洋館の窓べには挿したり。 朝のめざめも麗はしや 夕べ睡らんとする時も臈たしや 杏の実のこがねかがやき 七人の少女ならべるごとし われは旅びとなれど 七人の少女にそれぞれの名前を称へ 七日のあひだよき友とはなしけり。 あはれ奉天の杏の ことしも臈たき色をつけたるにや。
父の従姉妹たちのあいだで後々までの「語り種」となった父の言葉がある。「僕の妻になるひとは、床の間に飾って置きたいほど可愛い。」うん、たしかに。セピア色の母の写真を見るにつけ、それを思い出す。まさに「杏姫」であった。し〜か〜し〜〜〜。その後のことは「ソクラテスの妻」には少し(?)負けていたが……。(笑)
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