電話でいきなり「人生みじかいね」と。
友人の家の電話番号が変っていた。 そういえば、悪質ないたずら電話があると言ってたなぁ。 建築家のおにいさんに、訊ねた。 電話口に出てきた彼は、明るい声で「人生はみじかいね」といきなり言った。 はっとしたが、わたしは最近そんなことを考えていたので「そうですね」とあいづちを返してしまった。 「これから、なにか大きなことができるわけじゃないし」 それから、ちょっと椿や茶室の話をして(雑誌で茶室のことを掲載していたことがある)どんなことでも、一生懸命やってるとそれなりの世界にたどりつくいう話になった。 年齢の差はあるが、彼はいつもニ、三歩さきの人生を生きている。 20代から付き合って、会えば示唆に富む話をしてくれた。 ふっつりと会わなくなったのは、双方とも体をこわしたからだった。
今日は駅にいて、父が何度も車で送ってくれたことを思い出した。そうして、帽子をかぶった老人の姿を一瞬父と見まがった。人生はみじかい。「泣き女がいるから、男は泣けないんですよ。」電話を切るとき、そんな風に彼は言った。 家は今、母が泣き女をしている。だからわたしは泣かない。
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