骨牌
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骨牌



 煙草のけむりのなかで真新しいカードの封が破られる。そこからまずすべての捻れの中心、三日月に腰かけたジョーカーを取り除く。縦に切り、横に切り、じゅうぶんにシャッフルしたのち、カードの山はゲームテーブルの真ん中に置かれる。木綿倶楽部のピアノが叩かれるざわめきのなか、さいしょに賭博者がカードを裏返す。ダイヤの6。次に勝負師が捲る。スペードの8。ふたたびシャッフルし、勝負師がカードを配る。5枚ずつ。ドレスのブロンドの露わな背、辛口の発泡ワインとチョウザメの卵を載せた盆が行き交う。賭博者の手札はクラブの2、3、7、8、それにダイヤの9。勝負師の手札はダイヤの3、4、5、8、それにクラブのエース。勝負師と賭博者は場代のチップを1枚ずつ置く。交換すれば牛肉20ポンド分は堅い。チップは10枚ずつ。賭博者はダイヤの9を捨て、1枚取る。クラブの6。勝負師はクラブのエース以外を捨て、4枚引く。ダイヤの6とエース、クラブの4と5。肩をすくめた勝負師がチップ2枚でコール。チップ3枚がフラッシュを成し遂げた子の賭博者へ。親と子が入れ替わる。シャッフルしカットされたカードが賭博者によって配られる。場代のチップが1枚ずつ。賭博者の手札は、クラブのエース、スペードの2、ダイヤの3と4、スペードのクイーン。勝負師の手札はクラブの3、ハートとクラブの5のワンペア、クラブの6、スペードの7。すなわちスペードの7とクラブの3を捨てて2枚引く。ハートの6、クラブの4。賭博者はスペードのクイーンを捨て、1枚引く。クラブの2。ケークウオークしている背後の白シャツに後ろ姿で合図して、チョコレートを持ってこさせる。チップを1枚置き、コール。ツーペアの勝負師がチップを持ってゆく。金張りのライターで盛大な炎をあげて短い両切りに点火する。次の手札は、勝負師はダイヤの7、ハートの5、ハートとクラブの10のワンペア、ダイヤのクイーン。チョコレートの銀紙の小片を傍らに積み上げた賭博者は、ダイヤの2と8、ダイヤとクラブとスペードの9のスリーカード。すなわちダイヤの2と8を捨て2枚引く。ハートの7と8。側壁の流麗な天使の絵にひびく舌打ち。勝負師はダイヤの7とクイーンを捨てて、2枚引く。ダイヤの5とジャック。唇を舐め、勝負師はチップを2枚出す。子も同じ。さらに1枚。子も同じ。もう1枚追加して、コール。……賭博者のスリーカードが賭けられたチップのすべてを浚ってゆく。シャンデリアは白熱し、両切りを揉み消した勝負師は革のベストの内側に手を遣って、銀のスキットルボトルにひとくち口をつけ、タイを緩める。世界は赤と黒による四種類の火の文様に色分けされた迷宮みたいだ。勝負師の手札はハートの6、スペードの10、ダイヤのクイーンとキングとエース。眼を瞑ってハートの6を捨てる。引いた札は、クラブのエース。息を止めた勝負師のまえで、賭博者は2枚カードを替える。賭博者は場代のほかにチップを1枚。勝負師が応じると、さらに追加して2枚要求する。これで勝負師のチップはおしまい。旅立ちか、永劫の留置か。勝ち負けは見えないが自らのおおよその命運を理解してきた勝負師のまえに、ハートのエース、ハートのクイーン、スペードのクイーン……それに、スペードの7とクラブの7が列べられる。すなわち、カエサルに属するすべての財貨(チップ)はカエサルの許へ。甘い音楽。ドアをくぐって向う側を指す勝負師にはどこまでも甘い、青空の無が待ち受けているのだけれど。

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