悲恋「恋」   北村太郎
            (1922〜1992)


   あたしがこの世に生まれてから
   あたしのからだのなかで
   いちばんよく生きてきたのは
   唇
   肛門
   そして性器
   だからあなたは
   あたしを〈愛する〉なんてけしていわなかった
   あたしと〈愛をする〉といっただけ

   あたしは
   三つの場所から順に死んでいくよ
   あなたはたぶん
   日なたにいるだろうけど
   あなたの影はきっと固いよ

――『サンケイ新聞(大阪版)1988年2月5日』より――

この詩は、北村太郎十三回忌を記念して出版された「北村太郎を探して・2004年・北冬社刊」のなかの「未刊行未収録詩集」として収録されている作品のなかの一編です。

   唇
   肛門
   そして性器

初めてこの作品を読んだときに、わたくしは何故一番はじめに「心」をいれないのかしら?とおおいに憤慨したのですが、そうではなくてどうやらこの作品は「心」を入れなかったことで成り立っているのだと気づきました。北村太郎は女性の立場から書いているようにみせながら、実は男性の「憂鬱なるエゴ?」について書いているようです。北村太郎は奥様と8歳のご子息を事故で同時に亡くしていらっしゃいます。その時の「哀しみ」や「無念」「慙愧」のようなものがその後の生きる日々の底に流れ続けていたように思います。「愛する」と「愛をする」の間にある寂しく大きな距離は埋めようもないのですか?

   「あなた わたしを生きなかったわね」

これは北村の詩集「冬の当直・1972年・思潮社刊」のなかに収められている作品「牛とき職人の夜の歌」のなかの一行です。この「悲恋」からこのようなフレーズを思い出して下さった方がいらっしゃいます。(残念ながらわたくしではない……。)またこの北村の詩と対極にあるような、新井豊美の詩集「切断と接続」のなかに収められている作品「石の歌」の最終連も思い出されます。

   ソノゼンタイニナッテミル
   ソレシカ モウ
   アイシカタガワカラナイカラ


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