つぶやく堂やんまさんの句集「龍釣りに」によせて
――「砂嵐・芽藻」返礼として――



 二〇〇四年八月、わたくしの詩集「砂嵐」に収録されている作品全編に、やんまさんは一句づつ俳句をつけてくださいました。その「砂嵐拝読芽藻」はわたくしの「詩集紹介」のページにご紹介させてせていただきました。そして二〇〇五年八月には、やんまさんの句集「龍釣りに」が届きました。その句集の言葉に釣り上げられながら、わたくしも十編の詩を書いて、一年おくれの「返礼」とさせていただきました。

 やんまさんのホームページは「つぶやく堂俳句喫茶店」です。やんまさんの句を少し、ここにご紹介させていただきます。

   玉浮子を引き込むものもこの世なり

   次々と龍がとんぼに羽化する日
   
   初夢や太古の夢のそぞろ巻く

   銀やんますいつと空の裏側へ

   恐竜や太古の雪を鼻に止む

   空赤しドラゴンフライ暮れなずむ

   龍釣りに行ってそれきり麦藁帽

   花朧あのひともまた神隠し

   月朧湖心に龍を釣りに行く

   胡桃割る心の芯を齧るため

   落ちてより椿紅しと思うかな



※ 以下はわたくしの拙い返礼の十篇の詩です。


【龍釣り】

もしも小川から釣り上げたやごが
ボクの手のひらのうえで
ゆっくりと羽化してゆく時間があったとすれば

そしてふいに空に消えたとんぼが
龍になってしまったとすれば
ボクの手のひらの時間はボクだけのもの

「なにも信じない」とこころを張りつめて
「信じてもいい」とこころを撓めても
ボクの少年期は終わりがない

今日も龍釣りに行く
空の雲に腰をおろして
地上の小川に釣り糸をたらす


【朧】

私の愛したあのひとは神かくし
月朧 私は龍を釣りにゆく
貴方なら あのひとの行方わかるやもしれぬ

朝 釣り上げた龍は
おにやんまになって空の裏側へ
あのひとは名残裏にかくれているのですか

辻褄の合わぬ一夜の夢
季節の順列はみだれて
朧は深くなるばかり


【ふらここ】

あの万緑の公園にひっそりと
天から吊るされた水色のふらここが
ひとつだけあります

少年がおもいきり地面を蹴ると
天の雲はすばやく少年を隠してしまうが
ふらここに載って魂だけがゆっくりと戻ってくる

そうして秋がきて とんぼが飛んで 
冬にはぼたん雪がつもって
春の宵には龍が「うぉー」と啼いて
夏休みにはふらここのまわりに子供の行列


【胡桃】

それは小さな地球儀
山河を丹念に彫りこまれては
落ち葉の上にカサリと落とされる

地球の芯を齧ろうと
あなたは胡桃を割る
共に激しい痛みを分かつために

唇に微熱
あなたが齧ってしまったのは
わたくしのこころの芯でした


【麦藁帽子】

失くしては また被りなおして 
ボクは何度でも釣りにいくよ
龍を釣りあげるまではね

抱えきれないほどの土筆ん坊だったり
空蝉ひとつだったり
時雨だったり

帰り道にはいつでも
ボクをつかまえるものがある
ボクを走らせるものがある


【湖心】

湖のもっとも深いところに
釣り糸をたらすとき
ひとは疑似餌を魂に代える

浮標は
ひとと水との曳き合いに
しずかにしずかに動揺する

太古からの風が
いま 頬を通りすぎたとき
えいやぁーと ひとは龍を吊り上げました


【通草】

まんまるく実ることができませんでした
その実を閉じたままにすることさえできない
わたくしが通草です

種も仕掛けもありませぬ
はずかしき次第
甘露に免じておゆるしくだされ


【約束】

波は太古より寄せて絶えることがない
落ちてより椿紅しと思うかな
だからひとは銀河を渡るときに
うかつに約束をしてしまうもの

もっと幼ければ四つ葉のクローバをさがしたわ
こわれない時計も信じた
奇数偶数の花びらうらないをして
ラムネ玉呑みこんで男の子になる夢もみたわ


【落ち葉】

とめどなくこぼれてゆくものは
色づいた樹々の葉とひかり
わたくしたちの時間

遠い砂丘の足跡が消えて
彼岸は雨降りやまず
この世に訪れた理由もとうにわすれていた


【曼珠沙華】

赤鬼がむしゃむしゃむしゃと食む
けれども食べきれますまいに
この花の道はうつくしく永いのですもの

「あの世までの道あかり」
ばばさまはいつもそう申しまして
真っ白い腰巻をきりりと着替えておりました

曼珠沙華をいっぱい抱えて帰ったわたしを
たいそう叱ったばばさまは
あかりを持たずにあの世へいかれました

泣いても 泣いても
もう間に合いません
今年もたくさん咲きました


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