病床のバラ   関根弘
               (1920〜1994・東京生まれ)

   菅原克己はガンコオヤジになって
   貴重品になって死んだが
   僕の老化も急速に訪れており
   同じようになりたくても
   こればっかりは自分の手に負えない

   昭和が終わって新しい元号になっても
   僕の一生はモロに昭和漬けで
   昭和とともに終わるようなものだ
   いまさらなにもいいたくない
   天皇は眠っているのだろうか
   僕はぐっすり眠りたいのに
   いま不眠症におちいっている
   病床のバラを眺めて
   小熊秀雄の「馬の胴体のなかで考えていたい」を
   思い出した
   刀折れ矢つきたときの気持がよく分かるよ

   青春時代
   僕は天皇の軍隊に招集されて
   眠くて仕方がないのに
   不寝番をつとめたことがある
   それなのにいまぼくは
   眠りたくても眠れないので苦しい!
   心ならずも不寝番をつとめさせられている

   昭和の死は悲しくない
   早くぼくの人生も
   そっくりどこかへ運んで持ってってくれ
   生まれてきて損したよ

――『奇態な一歩・1989年・土曜美術社刊』より――

この詩集の刊行年の1989年とはつまり「平成元年」である。同詩集のなかの作品「改造人間(サイボーグ)」によれば、詩人関根弘は腹部動脈瘤破裂による緊急手術を受けた過去があり、さらに腎臓を患い、また貧血でもあった。人工透析、輸血による肉体への「他人の血」の注入に適応できない関根弘自身の精神の不安が書かれている。その頃、昭和天皇もまた病床にあったということだろうか?

   新しい時代はくるだろうか
   昭和はまもなく終わる
   科学の進歩は地球の一部すら壊しはじめている
   (改造人間(サイボーグ)最終部分)

病む身でともかくも関根弘は「平成」を迎えた。おそらくは憤怒の思いだったことだろう。

   生まれてきて損したよ

この最後の一行はあまりにも哀しい。「戦争」は終わっても生き残り、戦後を生きた人間たちのその後の生涯は、逃げようもなく「戦争」をひきずったのだ。死んでいった人間たちの無念さとともに。


前ページ     次ページ


声 「非戦」を読む 目次に戻るHaizara net(top page)Shimirin's HomePageUrokocitySiteMap