崖   石垣りん
       (1920〜2004・東京生まれ) 

戦争の終り、
サイパン島の崖の上から
次々に身を投げた女たち。

美徳やら義理やら体裁やら
何やら。
火だの男だのに追いつめられて。

とばなければならないからとびこんだ。
ゆき場のないゆき場所。
(崖はいつも女をまっさかさまにする)

それがねえ
まだ一人も海にとどかないのだ。
十五年もたつというのに
どうしたんだろう。
あの、
女。

――「表札・1968年・思潮社刊」より――


 二〇〇五年六月、平成天皇と皇后は戦後六十年経った時期に、何故、サイパン島を訪ねることになったのだろう?二人は日本、米国、北マリアナ自治政府の慰霊碑などを訪れ、さらに沖縄出身者、韓国系住民の慰霊碑も訪れた。かつて、サイパン島では日本軍を始め約四千名の民間人が玉砕した。特に民間人婦女子が身を投じた「バンザイクリフ」の悲劇は悲惨極まりない。彼女らは「天皇陛下バンザイ!」と叫んでから飛び込んだのだ。その「バンザイ」がそのまま崖の名前として残った。もう一つ「スーサイドクリフ」もある。双方とも追い詰められた人々が絶望の果てに飛び込んだ断崖絶壁である。


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