動物の受難   岩田宏
 

あおぞらのふかいところに
きらきらひかるヒコーキ一機
するとサイレンがウウウウウウ
人はあわててけものをころす
けものにころされないうちに
なさけぶかく用心ぶかく

ちょうど十八年まえのはなし

熊がおやつをたべて死ぬ
おやつのなかには硝酸ストリキニーネ
満腹して死ぬ

 さよなら よごれた水と藁束
 たべて 甘えて とじこめられて
 それがわたしのくらしだった

ライオンが朝ごはんで死ぬ
朝ごはんには硝酸ストリキニーネ
満腹して死ぬ

 さよなら よごれた水と藁束
 たべて 甘えて とじこめられて
 それがわたしのくらしだった

象はなんにもたべなかった
三十日 四十日
はらぺこで死ぬ

 さよなら よごれた水と藁束……

虎は晩めしをたべて死ぬ
晩めしにも硝酸ストリキニーネ
満腹で死ぬ

 さよなら よごれた水と……

ニシキヘビはお夜食で死ぬ
お夜食には硝酸ストリキニーネ
満腹して死ぬ

 さよなら よごれた……

ちょうど十八年まえのはなし

なさけぶかく用心ぶかく
けものにころされないうちに
人はあわててけものをころす
するとサイレンがウウウウウウ
きらきらひかるヒコーキ一機
あいぞらのふかいところに。


ーー詩集「頭脳の戦争・一九六二年刊」よりーー

 岩田宏。(1932年生まれ)。戦争の死の犠牲者は人間だけではなかったのだと彼は書く。これについては解説の必要はないでしょうから省きます。

 また、詩人安西均(1919〜1994)には新聞記者としての視点から、さながらカメラ・アイのように切り取ったようなすぐれた長編詩「屠殺記」があります。これは戦時下の上野動物園で、猛獣たちが「ストリキニーネ」で毒殺されたことと似た事件である。ある地方都市の市議会では動物園の猛獣たちを銃殺することを決議した。毒殺を避けたのは、あとで食肉代用とするためだったとのこと。安西均が支局の駐在員だったときの実話にもとづいて書かれた作品である。


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