終わりと始まり   ヴィスワヴァ・シンボルスカ 
                     (1923〜2012)

   戦争が終わるたびに
   誰かが後片付けをしなければならない
   何といっても、ひとりでに物事が
   それなりに片づいてくれるわけではないのだから

   誰かが瓦礫を道端に
   押しやらなければならない
   死体をいっぱい積んだ
   荷車が通れるように

   誰かがはまりこんで苦労しなければ
   泥と灰の中に
   長椅子のスプリングに
   ガラスのかけらに
   血まみれのぼろ布の中に

   誰かが梁を運んで来なければならない
   壁を支えるために
   誰かが窓にガラスをはめ
   ドアを戸口に据えつけなければ

   それは写真うつりのいいものではないし
   何年もの歳月が必要だ
   カメラはすべてもう
   別の戦争に出払っている

   橋を作り直し
   駅を新たに建てなければ
   袖はまくりあげられて
   ずたずたになるだろう

   誰かがほうきを持ったまま
   いまだに昔のことを思い出す
   誰かがもぎ取らなかった首を振り
   うなずきながら聞いている
   しかし、すぐそばではもう
   退屈した人たちが
   そわそわし始めるだろう

   誰かがときにはさらに
   木の根元から
   錆ついた論拠を掘り出し
   ごみの山に運んでいくだろう

   それがどういうことだったのか
   知っている人たちは
   少ししか知らない人たちに
   場所を譲らなければならない そして
   少しよりもっと少ししか知らない人たちに
   最後はほとんど何も知らない人たちに

   原因と結果を
   覆って茂る草むらに
   誰かが横たわり
   穂を噛みながら
   雲に見とれなければならない


※ 詩集『終わりと始まり』1993年刊。
※ 翻訳・沼野充義・1997年・未知谷刊 より引用。

ヴィスワヴァ・シンボルスカはポーランドの詩人です。1996年「ノーベル文学賞」を授与されています。彼女の詩は「非政治的」な言葉によって、「政治」に対抗できうる言葉を獲得したといえるでしょう。また言葉の実験のための実験には決して働かず、平明な言葉によって思想の伝達をこころみた詩人といえるかもしれません。

さらにこの詩の背景にある「ポーランド」という国の歴史も考えなくてはならないでしょう。この国は「分割」により国名を失い、地図からも姿を消した時代が2度ほどありました。「独立」をもとめて蜂起が繰り返され、独立すれば内紛が起こり、また、国境線が描き変えられたりと、さまざまな内外からの力に翻弄された歴史をもった国なのですね。

ヴィスワヴァ・シンボルスカのノーベル賞受賞記念講演の最後の言葉は「どうやら、これから先も詩人たちにはいつも、たくさん仕事があるようです。」とむすばれています。


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