浜松
 

ここは中州
川はもうすぐ流れを止める
ただ潮の満ち干きに阻まれ、あるいは引き寄せられて
少しだけ川に残る「流れ」は勢いをつけ
澱んでは
海に注ぐ

この中州で
川筋と川岸は忽然と消える
その境よりは大洋で、より巨大な海流が深みを流れる
しかしこの中州の間を流れる、ミズはまだそのことを知らない
この中州においては
ただ陸地からの排水はカビ臭く
それが潮の香りと重なり合う

ツネは風が強いがときには止まる
ヨル、中州の浜に立てば、古い時代
まだ文字さえも生じることの無かった時代
そのころには
従って、こころは純朴で
流れが穏やかなように、ひとびとが
明日の糧にだけ心をくだいていれば良かった
そのころのこと、この中州、音の聞こえない
深いしじまと静寂の彼方には、ただ
かがり火の灯りのみが見える

この中州の
湿り気のある砂の大地、ところどころには
ひとの背よりも高く茂る笹原の
開けたところには
風はサラサラと打ち鳴らされていた
サラサラと
サラサラと

すでに男を迎い容れていた少女は
家族たちと一緒にいる間は
母とともにイモを削り、サカナを火に炙っては、干している
父は網を繕い、骨片の針を磨く

戸口の傍で若い男の声に呼ばれると
娘は頬を赤らめつつ、そそくさと家を出て
川岸の丘のうえへと
闇のなかを、二人して立ち去る

誰もがこれから起こることを知っている
だが、誰も関心を抱かず
若い男と女には利害と妥協の生じることもなかった
ただこの幼い二人の出来事に、ことさら気づくのは
集落の火の番を司る媼のみであった

この中州もときに荒れ狂い、洪水に沈み
川がヒトとケモノたちの営為を押し流し
過去も未来も変わらぬことを
火を消さぬよう、見守っているこの媼の目は知っていた

むかし磯に魚の狩に出かけたまま帰らなかった
彼女のオトコ、そのときから
彼女は毎夜、火を見つめることしかできなかった
この哀れな女を生かせるために、集落が彼女に与えた仕事が
火を司ることであった
媼はどの男も近づけなかった
夫(オット)が帰ることを信じて疑わず
それゆえにも三十にもなったばかりの「オウナ、女」の、炎に夫の愛撫を託する瞳には
過去も未来もなかったのだ。もちろん
炎のなかに若い二人もいた

夫を慕う媼の心根はムラのひとびとの感動を集め、やがてそれは彼女への尊敬となった
こうして「ミコ、神女」たちは媼の生き方に範を取り、いつか婚姻を司るようにも
なったのかも知れない。これらの先祖たちの話は真実であったのだろうか
問おて、答えはなかろう

これらのことが、常にそれが、日常であったころのこと
古代の貝塚に刻まれて、蘇る生活の日々

空気と
水が澱み続ける、海を前にした
中州
 
 
 

(08 04 2005H17)


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