話して
 


 


さあ、話しかけてみよう、娘よ(僕でも良い)
幼いときを離れ、

ただ笑うことから、喋り始めたときのように
あなたがまた話し出す、こんなとき

誰もが
母になろうとするその齢に、あなたは
少しばかり下を向いている顔を上げれば良い
ただ世間を昼の光のなかへと見渡せるように
それだけのために
 
風が渡り、薫り、緑の葉々が語らう
昼下がり
には、犬を連れた老婦人、幼い子供を連れたおばさんたち
この並木道にも雑多な人々が行き交う、静かな午後、そこに
あなたを見つめる男たちもいる

怖れることはない
(何もあなたは間違えてはいない。この日常から、確かに恐ろしいものは
   生まれる)
この世があなたをかばい続けたかも知れないものを、以後は
あなたが自分で継ないで行く(ほかはない)

あなたが見た漆黒の絶望、陰り
そうだ。陽は翳っていく、果てしなくこの世は崩れて
息も出来ないほどの悪寒、酔うほどの発熱、社会、国際情勢、経済と戦争
卑劣な策略や暴力の図式、吐き気を催すものなら
毎日どこかで、普段着を着た姿でテレビにも新聞にも載っている
インターネットにも(一体、僕は何を喋っているのだろう)

娘よ、この長い人生に向かって、思い出してごらん

幼な児の笑いが
言葉になったときの喜びを
確か、そのときには陰りはなかったはずだ

あのころからは、実は永い沈黙があり
身体とともに、愛が育ち
 
そうして「いま」
再び、あなたは
舌を巻き
吐息にささやく
肉声の彼方にある
言葉を


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