堀街
 

ゆきずりに女たちがわらう場所。切断された舗道。声のないおきて
が投影される。
敷石めいた重みがこぼれた。浮き沈みのするぬれないもの。坂のむ
こうに、いつだって川は。
公園では足跡を埋めた土が夢をみている。叫ばれた広告塔。静謐を
しめった約束がたたいてゆく。
堀としての存在は希薄になっていたのだろう。かこむように咳、首
をふりつづける犬、熱い確認。
ささやきだけが聞こえてくる。ひとりの行為をあいさつする、あれ
は記憶よりもむこうの側だ。
フィルムならライヴラリーに。彼女の事情をつかみあぐね、不運な
男がわたってゆく。
ポスターは貼りかえられてなどいなかった。耳のなかの速度、はね
かえってくる遠吠え、夜風にまじる花占いのうそ、ほんとう。
わきたつおもてが饒舌になる。ひとびとだったかが水面にうつらな
い日付をおぼえていますか。
帰ってきた街がはじまる旅、線路のない約束。暗渠のような点滅だ
けが、彼をころばせ、みつめていたのだ。
待ち人などいませんから。その後、書き損じで固められた橋をとお
れば、といううわさが流され、四季を覆った。
かわいた車のスピード。冷たい一歩がしたたる交差点。たちどまる
女たちの忘れたものが、地中におりてそだっている。
坂の上。噴水広場はさびれています。スクリーンはテントに似てい
ました。犬のふるえがやましくなる。
掘り起こされた花壇の側で、知っていたかたちが音色をほうった。
土手だったものが柵、壁だったものが泥。
季節がいない、一周して、踏みかためられた夢のわきで、根づいた
ものがうなされる。季節がくるしい。予告がとぎれ、街は。
脇をくぐる。あたらしさが待ち望まれ、かわいた歳月がふきだまっ
た。それでも。不運だった男がまばたきだ。暗転。
無名性が白い幕にたたまれる。深い堀がぬるむだろうか。死に際が
なんども巻き戻され、彼女は生きた。またがれた舗道はあたたかだ。

(初出 『現代詩図鑑』2005.12)


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