星落

星落

三井喬子

あなたが逝った秋の夜に
はり裂けてしまった水面から
飛びだして行った鳥がいたよ
暗い空を蒼白く舞って遠ざかり
その飛沫を煌めかせ。
読経も静まった斎場の
灯り
一つ消え また消えて行き


うっすら暗い
この山陰に遺体が一つ。
誰からも愛されたが
誰も愛さなかったあなたのことは
沢山の胸に残ったが
あなたはそれらを全部捨てて
きっとせいせいしたことだろう。
その額に
形なく
かぎりなく落下した 星。
あなたは自らの生を孤独なものと為し
わたしの生をもまた寂しくした。


捨てる。
これほどあなたに似合う言葉はなくて
秋の夜空はひんやりとし
絶え間なく ひりひりと揺れている。
魂は
宙に びっしり詰まっているのだろうか。
翌日は灰になるあなたの骸は
なるほど 残骸と呼ぶにふさわしかった。
深夜の斎場の
灯り また消え
夜の蒼い鳥が
あっ、と小さな声をあげる。

(『部分』36号)