小さな叫びだけれど

小さな叫びだけれど

一瀉千里

元安川の闇は暗い
暗い川を 色とりどりの盆灯篭が流れてゆく
遠くに 浮かび上がる原爆ドーム
浴衣姿のおさなごは 
その小さな手を 暗い川に向けて静かに合わせる

あの日の魂は戻ってきた
あの日のことがよみがえる
帰り際の 魂たちが
振り返って呟いている
二度と あの日のようなことが
決して 起きませんように

多くの手が魂たちを見送る
元安川に 手を合わせる

炎天下のもと
アメリカからおとずれた大使たちは
その 汚れた手を合わすのを
いまだ ためらい続けている

失われた命が 少しでも報われますように
この世に 地獄があるならば
あの日の地獄と つながりませんように
祈りの呪文が 世界を駆け巡るとき
何千万羽の折り鶴が 遠い空から飛んでくる

偽りのない祈りが 人々の心に
ちゃんと根づきますように
誰のこころにも まことの祈りとして
わずかな叫びだけど
今日も密かに したためます
元安川へ 流します