時の声を聴いて

時の声を聴いて

足立和夫

古い刻だった
突如
巨大な黒い岩にぶつかって
時間のしずくという奇妙な道に
巻き込まれたひとたち

草男には
その戻し方を教えられない
もし知ったとき
ひとは大きな岩のひとつになるだろう

遅滞する動きの静かな響き
風になびくだけ
ひとのみだれた足跡
謎がひとつふえるだけなんだ

真っすぐに死にむかってる
ひとの死
われわれが居るという謎のひろがり
老樹の深い沈黙
時間のしずくがあることの不可思議

宇宙の奥底から
つめたい声をもつ
異質の知性の記号が
おびただしくひとのそばに
投げ出される
記号の肌は怖ろしく
空気がひやりとする
時の袋なかに記号を放り込んだ

老樹の根元から
美しく澄んだ水が流れてきた
ひとの足元を水の匂いが囲む
ひとは智恵を切におもっていたので
水をたくさん飲みはじめる
すべてが見とおせるように願った