朝のバス

朝のバス

おかだすみれこ

今日からメマイ始まる
ほんのすこし視界が揺れると思っていた
通勤バスにはすぐすわる
座ってから手すりをつよく掴んでいる
じぶんの手を見て変調を知る

たとえばつい最近愛しいものをなくしたひとがいても
誰も何も気づかない
そのひとは誰にも労われることなく
前を向いてバスの中で立っているか
うまくすわれて窓の外をみている

人々はそれぞれの目的に向かうために
決意をしてバスに乗ったので
足を踏ん張って立っているとか
手すりを強く握りしめているとかは
緊張感にかき消される

ふと何かを思い出して
ステップを降りる足どりが遅くなるとき
じょうずに駅までは行ったのに
もういつもの電車には乗れない
どこまでも夏が終わっていく
区切りがない
終わりがあるだけでそれが続く

懐かしい症状のメマイに
わたしもゆっくりと引き戻される
かたい決意をしたかのような朝のバスが
閉ざされて背後にある
もう運転手さえいない