Aug 03, 2007

アイロン


 みなさん、南川優子さんの作品を読まれましたか?  
どんな感想をお持ちでしょうか?    
念のためここに引用させてもらいます。
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アイロン

浮きたいと思うと
身が重く 熱くなり
ますます沈んでしまうのであった
朝のニュースが終わると
ちぢれた布の上に
うつぶせになる
今日は ワイシャツ
ずっとこうして 動かずにいれば
焼き跡を残すこともできるが
尾から電気を 流し込まれると
前に進むしかなく
青い縦じまを 黙ってたどる

袖口を一周してから
肩に向かって徐行する間
体の下で 空間が潰れ
脇の下の湿った縫い目が
じゅっといううめきを最後に
口をつぐむ
浮いたかと思うと
まっぷたつに割れる胸に
ふたたび着地
ボタンを鳴らしながら
聴診器のように あてどなく滑る

ワイシャツは 身をひるがえし
うつぶせになるけれど
広い背中に どこから入っていいのか
わからず
どう、と馬乗りになって
横揺れに身もだえすると
青い縦じまは ハープの弦のように 切れ
この鉄の体は 落下する
じっと
カーペットにぶつかる瞬間を
待っていたら
この部屋に底はなく
静かな闇に 沈み続けるだけだった
縦じまが はじける音色だけが
遠くでぷつぷつ聞こえる
ワイシャツは 勝利のマラソンランナーのように
手を上げて
この身が沈むのと 同じ速さで
浮いていった

ナタリヤ・ゴンチャロバ「リネン」を見ながら

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シャツにアイロンをかけるということをこんなにおもしろく 表現できるとはすごいと思う。  
アイロンの動きと、シャツの動き、そしてアイロンをかけているひとが、さながら念力でアイロンを動かしているようなふしぎな距離感、当人は透明人間になったみたいだ! 一種の擬人法か?
 
この精密な観察力と精巧な表現技巧、さらにイメージの展開のたくみさ・・・何度読んでも感心してしまう!  
最近読んだ詩の中では出色のできばえだと思う。
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