風景のための悲歌
倉田良成詩集 旱魃の想い出から 一九七〇〜一九七五 目次前頁(室内楽) 次頁(歩くひと)
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風景のための悲歌



みずからの日輪に贋(に)せて時刻が象られた

わたしたちを基点にしてまるで紋章のように展げられる風景を
はるかな契約で封印する手がわたしたちにくらい関知をおよぼす

伝達の弓は夜をわたって彎曲した
わたしたちは視えない核のように発しつづけた

日画家たちが描く単一の透視図のむこうがわから氾濫してくる影が彼らの圏を決定したように
光りにむかってみひらかれるわたしたちの眼には正午(まひる)の失明が受肉される

風景にむかってわたしたちが首肯(うなづ)いてゆくたびに世界は太陽をおしかさねてくる
燃えあがる日蝕の圏の内部(なか)に囚えられるわたしたちはしるし

ついにわたしたちの眼そのものが光りのうちに円環をとげる果実と化すにいたるまで
たとえば世界はみずから閉じる自刻のはりに描きつづけられる一個の時計

たとえばひとつの時計器があの焔という像に潤色されて名称の季節のほうへとあふれでてゆくように
わたしたちの盲いが充たす現象の泥土のうちにおもわれるうごかぬ巨きな円はいつか告知であるだろう

ひとりの日画家の瞠視の底にめざめだす声によって
風景はふかくかたむけられてゆく


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