撒水車
倉田良成詩集 旱魃の想い出から 一九七〇〜一九七五 目次前頁(視えない廃屋で) 次頁(回想記)
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撒水車



     ――撒水車だ。雨を呼ぶために。天になるごとく地にもならせ給え、か。                               (J・ジョイス)

夜にはとおくまで渇く
こえもなく犯しかけてくる日ざかりのしたで一回の
あつい季節が閉ざす巨大な蓋を想っていた
暗く充たしてゆく地の上に

斧のように振りあげられたまま
世界はとまる
眼差しの周囲に近づく血液とひでり
そのくらがりから眺めている
襲うもののない路上を
視えない水にしぶきながら巨きな破船が通りすぎるとき

無言で行きあたる正午(まひる)の人間から
ふいにランプよりも夥しい影を浴びせかけられる
(どんな海が視える?)
水のない通路に向かい
わたしから
ゆっくりと壊れて遠ざかる貌が
しばらくは八月の
炎える穴のおくで揺らいでいる


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