仮面パーティー

仮面パーティー

南原充士

 マサトはミステリートレインに参加するのを楽しみにしていた。夏休みの特集として小学生を対象にした特別ツアーが企画されたのに応募したのだった。出発当日の朝集合駅に行くと多くの小学生が待合場所に集まっていた。旅行会社の何人かの係員が会場整理に当たっていたが、やがてひとりの係員が前に立ってマイクで今回のツアーについてあらためて説明し注意事項を述べた後、列車の停車しているホームへと案内を開始した。
 列車は二両編成で小学生の参加者が約二〇〇名、旅行会社の係員が数名といった構成だった。マサトの隣には女子小学生が座った。おたがいにこんにちはとだけ挨拶してだまっていた。係員が参加者を確認して間もなく列車は出発した。一泊二日のツアーということは決まっているが行先は秘密なので、みなどこに着くのかわくわくどくどきしながら列車に乗っていた。
 車窓から外を見ると真夏の青空が広がっていた。しばらくするとみなリラックスしてきて少しずつ言葉を交わすようになった。隣の子はサヤカという名前だった。ミステリートレインに興味があって申し込んだのだと言った。列車はノンストップで快調に走り続けた。数時間後に着いた駅は信州の中ほどに位置していた。列車を降りるとみな地名を確認して「おーっ」というような表情を示した。係員がまた駅の構内で参加者にこれからバスで青少年センターに向かうことを告げた。
 青少年センターに着くと、係員が施設利用の注意事項を述べ、部屋割りを発表した。そのあと室内でゲームをしたり外でボール遊びをしたりした。日が暮れるとキャンプファイアーがあって、係員の指示に従ってグループごとに輪になりフニクリ・フニクラなどの歌を合唱した。夕食はバーベキューで肉や野菜やパンをお腹いっぱい食べた。その後センター名物のイベントルームで仮面パーティーが行われた。控室にはいろいろな種類の仮面が並べて置かれていて、参加者は抽選でひとつを選び、それをかぶってパーティー会場へ入るのだった。部屋は暗かったが、強烈なライトが灯されたりクラブのような音楽が流されたりした。係員もドラキュラや一つ目小僧などの化け物をかぶって参加した。「きゃーきゃー」悲鳴が響く中でみなダンスを踊った。マサトはドラえもんの仮面をかぶっていたが、ふと目の前にゴジラの仮面がいるのに気が付いた。マサトの三年前に亡くなったパパがよくかぶっていた仮面と同じだった。マサトは思わずゴジラの仮面の前で立ち止まってしまった。パーティーが終わった時マサトはすかさずゴジラの仮面の前に行きじっと仮面を見つめた。すると係員は仮面を脱いでマサトに「楽しかった?」と聞いた。マサトは胸がいっぱいになり何も言えなかった。係員はやさしくマサトを抱きしめた。
 翌日、列車は無事出発地に戻った。マサトの胸の興奮はなかなか静まることはなかった。