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秋の門 --- 秋の意志



秋の門




一瞬の空白に
秋がせりあがる
暮色の火花となり
消えのこる夢の空をかき乱す

獣は重たげに鎖を鎮め
首の輪は恨みの光をたたえている
溶解した林づたいに逃げ惑い
あらわれるものの予感がある

明けやらぬ無言(しじま)に
ひそやかに息を籠めるもの
水に浮かびでた火色の瞳に
訪ねた秋は吸い込まれてゆく

薄らいだ夢の奥処で
振り捨ててきた寂寥に会うために
野の道ばかりを選び
ゆくりなく狭き門をくぐる




鳥居を出立すると
そこは一面の秋であった
神経症(ノイローゼ)の蝶が
石のうえで眠りこけていた
暗い手をさしのべようとすると
際限ない光にくずおれ
一抹の塵となって失せた

風が集まると
樹木は身をよじって泣いた
いびつにあかぎれた枝先には
見捨てられた鳥の巣が
いつまでも光っていた

嗤い声がのろしのように
打ち上げられると
言葉を返そうとする
私の沈黙に
錆のようにふきでるものがあった

誰が石を積むのだろう
半壊した路傍の祠は
なかば瓦礫に埋もれ
一言主の失踪を
とどめるかのように

枯れ果てた門に
女が
一まいの髪を巻くと
うら淋しい
標であったりしたのだ



  初出「増幅器」7号(1978年)

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   秋の意志



   死はいつでも指先から芽をふいているから
   すこしだけ時間を止めて
   あなたが書いた幻想の地上の思い出を
   わたくしたちが歩いてみましょう。

   いつかなにもかもなくなるのなら
   あなたがなにかをいいあてることがありえるのなら
   あなたの書いた物語を
   わたくしたちの意志で叶えてみてもいい。

   それはささやかな物語
   金色に輝く秋の斜光のなか
   まっすぐに立つ黄葉の銀杏に
   わたくしたちが遭いにゆくこと。

   特別といえば二人で行くこと
   それだけです。



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