Eclogue

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水島英己

遠い夜のア・カペラ
成長することのない人格が歌っている。

アレクセイやミーチャ、イワンの兄弟も歌っている、
父を探して、
父に会いたくて、

兄弟や姉妹という響きは、すばらしい。
歩き続けて、疲れたときの脚、
頭脳のない肉、天才のいない才能、
習いすぎ、覚えすぎたゲップ。

ああ、月も出ない、ただ燃えている恒星を、
ただ真似する、熱だけは異常な惑星。

度を過ぎたことを好むド氏は
「変である」ことこそを正常と見なす。
ヒデミ、常に最高に低く、
それはおまえの意識する「公転―revolution」のせいではなく
強いられた惠みだということを、知らねばならぬ。
冬至を目標に生きることだ。

ただ「自転―rotation」にのみ生きるものは
出会いを知らない。
いわく、
「一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままである。
だが、死ねば、多くの実を結ぶ」

惑星である。
ただ、もう異常な惑星である。

死ぬこと、死ななければならぬ。

なんという不思議なことであろうか、
私も父である。
ゾシマ長老よ、
これが私の最愛の肉です。
ヨウコ
ウシオ
と申します。
わたしの血と肉を分けた娘と息子です。

わたしは生きているのに、
しかし、わたしは生きているのでしょうか?

アレクセイやミーチャ、イワンの兄弟も歌っている。
それぞれの切り離された重奏で、それぞれの「留―station」を歌うだけで、
それだけで、精一杯だ。

わたしはペシミズムの底を歩みながら
乖離することはない、
わたし。
癒される温泉などはいらない。
わたすのだ、さみしい夜のア・カペラ。