孤独なこども

孤独なこども

おかだすみれこ

あなたがわたしを探せるように
あなたにもう一度わたしを見つけて貰えるように
この場所から動くことができない
「紫 野うさぎ 夕景 森 すみれ 木の葉 そう、言葉・・・。」
5年半というあなたと過ごした時間のなかで
いくつものキィ・ワードが生まれ
それはまるでふたりのあいだに産まれた愛しいこどものようだった
はじめから意味が与えられ宿命のように未来のない
孤独なこどもだったから
わたしは壊してしまわないように大切に育んだ
こどもは少し成長して詩集になった
恥ずかしそうに街にでていった
未発達だけれど感受性だけはもっていて
傷つきやすいということを
誰よりも知っているのはわたしだった
いえ あなただった
キィ・ワードの鍵穴をつかって
あなたの力づよい囁きと交接をくりかえしながら
この安心感が半永久的につづくものだと
愚かにもわたしは思っていた

とつぜんにあなたが消えた
わたしはもう何日も泣いてばかりいる
こどもをみるとあなたを思い出すから
目を伏せて遠ざけている

こどもは成長をやめ
わたしは年老いていくだろう
暗号のようだと愛しく見つめていたのは自分だけだったのか
血が滲むほどに握り締めた掌のなかでコトバが凍りついていく

あなたが消えた謎解きだけがわたしに残された唯一のあそび
今夜も冷たい指に息をふきかけながら
真っ白いノートを見つめているが
どうしてもここから先に進めない
「紫 野うさぎ 夕景 森 すみれ 木の葉 そして・・・」

そうコトバはいまひっそりと凍っていくところだから
微笑が答えを連れて
このノートの上にもどってくることはもうないのかもしれない