まつとしきかば

まつとしきかば

倉田良成

  題しらず
立別れいなばの山の嶺におふるまつとしきかば今かへりこむ   在原行平


 百にいくつか足らぬ齢で大往生した、一族の大刀自ともいうべき老女が亡くなって、その娘たちとその孫とその曾孫が集まって葬儀がいとなまれた。娘は全部で五人いて、孫は八人、その孫のつれあいの一人がこのおれで、さて、そういう部外者から数えると大刀自の曾孫の数はよく分からない。だいたい孫の数の倍数と見ておいた。これ以上の寿命を保っていたら玄孫の一人二人、あやうく出現していたところだ。喪主は老人の最期を看取った五人姉妹のうちの末娘で、ちょっとほかの四人とはわけありの距離がある。どんなわけありなのかと訊くと、五人姉妹の長女のそのまた長女である女房の機嫌をなぜか損ねる結果になるので、おれは蚊帳の外にいることにしている。読経がすんで御斎(おとき)になって、地方から出てきた次女のせがれが、東京ではなかなか手に入らない清酒の一升瓶を隠し持っていることが判明した。あとでだれかと一杯やるつもりだったらしい。ところがその母親である大刀自の次女がそれを見つけ出し、はしゃいで大騒ぎしたすえに、だれもいいともなんとも言わないうちにその栓をあけてしまう。次女のせがれは急遽その場の支配人に駆け寄って持ち込みの許可を取り付け、あまつさえ人数分の小グラスまでそろえて持ってこさせる。こいつは小さいころは家で、長じては会社で、よっぽど苦労していたに違いない。この酒がきっかけとなって、なかなかややこしいことになっているらしい長女を筆頭とする四姉妹と末妹が少しうち解ける。五人姉妹のうちの三女がグラスを手にした末妹を、同じくグラスを持った長女のところへとりなしに連れてきたのだ。がやがやとした飲み食いの席で、気がつけば長女と末妹が並んで坐ってなにやらひそひそと話し込んでいる。親密そうなのを見て、よかったじゃないかと女房に耳打ちしたら、長女の娘たる彼女が言うことに、あれで一件落着と思ったら大間違いだからね。暫くしたらまたもとの泥路(ぬかるみ)に戻らないでもない。男ってほんとに単純なのね。そうかいそうかい。それはすみませんでしたね。でも見てみな。きみのおふくろさん、なんだか亡くなった一族の大刀自そっくりになってきたじゃないか。大刀自のその顔のまま、おや宴席の真っ最中、ふいの嗚咽を洩らし始めた。すると末妹も、末妹を引き合わせた三女も、せがれが止めるのも聞かずおおはしゃぎで杯を重ねていた次女も、ずっと奥の方に引っ込んで親子三人で固まっていた静かなる四女もみんな、突っ立ったまんま、幼女たちみたいに大っぴらにしゃくり上げはじめる。どこやらで鳴る風の嘯き。そうやって、泣いたり笑ったりそねんだり。しばらくは歌い、笹の葉に乗った精霊みたいに流れのなかでにぎやかに浮かんでいる。永遠に死ねもしないで。