列車

列車

岡田すみれこ

ある日兄が突然に逝ってしまった
なんでもできる優秀な兄だったが
ちょっとおっちょこちょいのところもあって
ひょいと間違えてあの列車に乗ってしまったらしい
遺されたわたしたちはすごくびっくりしてあまりに急だったので呆然とした
しばらく会っていなかったけれど いつでも会えると思っていた

会いに行ったのは葬儀場だった

「どうしたの?」と問いかけても大好きな兄は本当にもう返事をしなかった
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら兄と別れ とぼとぼと帰ってきた
それから毎日 昼間は普通の顔をして暮らし 夜になると泣いた

小さいときから今までケンカもせず いつもたくさん助けてもらった
どんなときでもかならず味方になってくれた
わたしの得意分野と思った時はよく相談してくれた いつも精一杯考えた

あまりにも多くの出来事があり とても抱えきれないまま日にちが過ぎた
ある眠れない夜 列車に乗っている兄の顔が浮かんだ
「ごめん、ちょっと早かったな」と言って笑っていた
そんなつもりもないのにあの列車に乗ってしまって自分でも驚いたに違いない

降りられない列車は遠くにいく
もう何も届かない
わたしは遺されてしまったけれど窓側の兄が笑顔だったので
そのことを救いにしようと思った
届かないことに打ちのめされながら
何度も何度も笑顔や声を思い出しながら

そうしていつかわたしもあの列車にのる
あとどれくらいなのかはわからない
でもそれがほんの少し待ち遠しくて
もう誰にもあえなくてもひとりでいい ひとりで行こうと思う