Aug 08, 2005

The afternoon after rain



葉のひとしずくをともす、垂れたまま。それが雨後の午後の入り口なら、指先。迷わぬ舳先となって。far calls. coming, far ! ゆれる球体の彼方の呼び声に、帆を。小声の、草叢の、逆巻きに、この尖った両耳を。



割れたもの、砕けたものが友達だった。悪童どもの、秘密の夕方。トカゲの尻尾のように。本体は逃げ去り、生々しい記憶だけが、こぶしのなかでうごめいている。



土のなかの炎。そのありかを私は知っていた。ミミズの蝶結び。その苦しげな汁の傍らに。



芝の先に削りとられた頬の、かさぶたの下で。小声の歌が聞こえるよ。



足元を水が流れる、小さな雲が映って、ここにも空が。踏みしだきそうに、またいで、川に向かえ、空を宿した水の蛇をまたいで、川へ向かえ。その皮を脱ぎ捨てて、散りばめた風のうろこを脱ぎ捨てて、はだしの、祈りの、はだしの、祈りの。そこにも空が。



ゆれ動く水面が午前の入り口なら、踵。足元の空を踏み割って、切れぎれの地図にせよ。



地図を泳ぐ日々。決して重なりあわぬ、複数の地図が、混じり合ってしまったような。破片のなかを。それを縫い合わせては。破れやすい、生のテリトリーだと。思いがけない通行路が、階段が、不明な余白が。ありえない隣接が。耳をすませば、あるものだよ。



ポケットのキャラメルの包み紙が、君への置き手紙。細かくたたみこまれた夕日が。まだ指先で震えていて。



小声の歌が聞こえる。濡れた樹木の階梯を、のぼり、くだりして。二段飛ばし。踏み外し。跳躍と墜落の反復こそが、やがて土のなかの炎を掘り起こす。

10

おいで、しずく。固く折りたたんだ、地図と。小声の。すべてを、ここに。far calls. coming, far !  応えるなら、草叢。それが入り口なら。脱ぎ捨てられた皮を、我が先行者として。主なき皮を、むしろまばゆい明かりとして。


初出「hotel第2章」no.13
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