山を見ていた
18歳まで山に囲まれて育った。2000メートル級の越後三山周辺の山々。
南北にほぼ等距離で並ぶ駒ケ岳(2003)
中ノ岳(2085)
それに丹後山(1809)を越後三山というのかと思う。
すぐそばにある1778mの八海山は修験道の霊場だ。酒の名前にもなっている。
一回り上の長兄達は成人の年前後に青年団で修験登山している。
「八海山から見るとおらあ家の後ろの山なんて畦みたいに低い」と。
そういうものか、どういうことか、と小学生の頭で聞いて、その時の兄と自分の姿が今も思い浮かぶ。八海山頂上からは東方に三山が、また東南尾瀬方向の山々が望めたか、とそこまで訊く知見はなかった。
丹後山の南東には平ケ岳(2141)景鶴山(2004)尾瀬沼の燧ケ岳(2346)がやはり等距離で並ぶ。尾瀬から見ると燧ケ岳が2346mもあるとは感じられない。
以上七つの山のうち、名のとおり燧ケ岳だけが火山。
我が家の正面は形の良い金城山だ。冬は真っ白。春から夏にかけて渓谷の残雪がアニメーションを演ずる。表情の変わる人の顔や動物の駆ける姿。暗号じみた幾何学形、ナゾの古代文字など。
「畦のように低い」裏山の麓、家の裏の泉を飽かず眺め、振り仰ぐ金城山。湧き止まない清水とどっしり不動の山々を見て育った。
ユキノシタ
曇、寒。
ラジオの声では「夕方には雪が降る」と。
数日来太陽に当ててほぐしておいた土を集め、
義姉が「咳止めに効く」と送ってくれた
雪ノ下をプランターに植えた。
雪ノ下は漢名では虎耳草と立派で、凍傷にも効くそうだ。
届いたのは一週間前。土をつくる、を口実に
植えるのが延び延びになったのだ。
これでは、雪の予報で雪ノ下を思い出したと思われそうだ。
雪ノ下をダンボール箱から出し夜の雪の下にして虎耳草を
凍傷にしようとの魂胆か。いやいや、偶然のことなのです。
凍傷に効く葉なんだから雪くらいでは虎の耳は凍傷にならないはず。
ひとり俯いたまま笑う。
今夜、雪は降るのでしょうか。