Jan 14, 2007

エフゲニー・ムラヴィンスキー

久々にクラシック音楽など。
指揮者エフゲニー・ムラヴィンスキーについて。

ムラヴィンスキーは旧ソ連を代表する指揮者で、これまたソ連を代表するオーケストラ、
レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者を約50年に渡って勤めました。
そして20世紀最大の作曲家ショスタコーヴィッチの初演指揮者を何度も勤めています。
日本での人気も高く、73年、75年、77年、79年と四度の来日を果たしましたが、
四度目の来日の際に亡命者を出してしまい、五度目の来日は成りませんでした。
1988年他界。

かっこよくて怖いクラシック音楽を聴きたかったら、ムラヴィンスキーです。
とにかく柔らかさ、優しさという言葉とは無縁な厳しくタイトな演奏であり、そして怖い。
打楽器系は戦慄させられるほどに強打され、バイオリンの音は刃のような鋭さを持ち、
指で触れたら本当に切れてしまいそうです。
そのスピードもすさまじい。
実際に演奏速度は東西の指揮者を見渡してもトップクラスの速さなのですが、
数字的にそんなに速くないものでも、演奏が鋭いので速いように聴こえてしまう。
そして特筆すべきはレニングラードフィルの鉄壁のアンサンブル。
特に速い曲での人間業とは思えない各楽器の揃い方には息を飲まされます。
ショスタコーヴィチ交響曲第6番の最終楽章など圧巻。
ここまでオーケストラを鍛えられたのも、五十年という普通では考えられないほど長きに渡って
常任指揮者を勤めていた賜物でしょうが、その練習もかなり激烈だったようです。

レパートリーはベートーヴェン、ワーグナー、ブラームス、モーツァルト、ブルックナーなど
数多くありましたが、なんといっても重要なのは同じソビエトの作曲家ショスタコーヴィッチの交響曲。
有名な5番を始め、6、8、9、10,12番を初演しています。
このムラヴィンスキーのショスタコ、とにかく怖い。
ショスタコーヴィッチは20世紀初頭に生まれ、1975年にこの世を去っており、
その作曲活動の内かなりの期間が戦争に重なるため、戦争を題材にした曲が多くあります。
それらの曲を作曲者の意図に最も忠実に演奏したのが、ムラヴィンスキーと言えるでしょう。
ショスタコーヴィッチの交響曲が演奏される場合、所謂西側の指揮者は政治色をなるたけ薄め、
純粋に音楽として演奏する場合が多いのですが、それに対してソビエトの指揮者は、
やはりその曲で描かれているものの当事者の一人として演奏するわけですから、
いやおうなしに強い思いが滲み出てきます。
中でもムラヴィンスキーはその極地で、生々しい現実の戦争の恐怖を描かれる部分など、
本当に背筋が凍るような怖さを感じます。
私も好きといいながら、「もうやめて」と途中で聴くのをやめたくなることすらありますが、
しかしこれはある意味、本当に聴いておくべき音楽と言えるかもしれません。

またムラヴィンスキーの魅力は、そのたたずまいにもあります。
すらりとした長身に、有無を言わせぬ頑固そうな顔と鋭いまなざし。
オーケストラのメンバーをバックに直立する姿は、
まさに「ムラヴィンスキー率いるレニングラードフィル!」といった感じでしびれます。
練習も相当に厳しく、怖い人だったようですが、実は人情家、優しい愛妻家の一面もあり、
奥さんが病気の時など、演奏依頼を断ってつきっきりで看病したり、
オーケストラのメンバーが突然バースデイパーティーなど開いてくれたりすると、
目に涙を浮かべて喜んだり。

上記したとおりショスタコーヴィッチ以外にもレパートリーは数多くあり、
そのすべてがムラヴィンスキーでしか味わえない個性的なものです。
ブルックナーは、通常のブルックナー観を覆すような速く鋭い演奏ですが、
これはこれで完全に成立しているところがすごいです。
モーツァルトも同様に鋭く、普通は華やいだ演奏をされる「フィガロの結婚」序曲など、
びっくりするほどかっこよく仕上げられています。
ワーグナーも得意で、映画「地獄の黙示録」で有名な「ワルキューレの騎行」など目茶かっこいい。

で、推薦盤ですが、
ムラヴィンスキーの残した録音の大半は旧ソ連の国営レコード会社「メロディア」へのものなので、
非常に音が悪いのが残念ですが、奇跡的にというか、ドイツグラモフォン(DG)にチャイコフスキーの
後期三大交響曲を録音しており、これは演奏、音質ともに最高ですので、安心して薦められます。
それとSCRIBENDUMというレーベルから出ている
「MRAVINSKY IN MOSCOW 1965」と、
「MRAVINSKY IN MOSCOW 1972」は演奏、音質ともに素晴らしいです。
四枚組と三枚組なんでちょっと値は張るかもしれませんが、名演揃いなので興味のある方は是非。
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