Mar 30, 2006

一月に白井明大さんの詩を舞台化した

劇団夢現舎の公演「中庭の狂人」を観劇しました。
私が見たのは3月24日(日)の夜の部。

内容は、井伏鱒二が主人をつとめる質屋の中庭にて、
創作に行き詰ったために、その才能を質入れしてしまった作家たちが、
新たな創作へ向って入り乱れつつ奇怪な努力をするというものです。
出てくるのは芥川龍之介、太宰治、川端康成、与謝野晶子、宇野千代、
柳原白蓮、原阿佐緒、井伏鱒二、林芙美子、三島由紀夫、住井すゑという、
馴染みのある作家ばかり。

お世辞抜きに、素晴らしく面白い作品でした。
見る前は二時間という長さに不安も感じていたのですが、
始まってしまうと、間近で繰り広げられる俳優さんたちの演技に惹きつけられ、
またその設定やセリフの面白さ、次々に繰り出される短いストーリーに見入り、
あっという間に最後まで、退屈する隙もなく見せられてしまいました。

普段、演劇を見に行くことがない私にとっては、
生で見る俳優さんたちの演技は大変刺激的でした。
洗練された発声、動きの美しさと連続性、表情を含む全身を使った表現など、
映画などで見る演技とは異なる生々しい凄みと迫力をまざまざと見せ付けられ、
演劇と言うものの面白さを、この歳になって初めて気付かされた感じです。
貴重な、とてもいい経験でした。

白井さんの舞台の時にお見かけした顔も多くあり、
「ああ、あの人があの役を…」なんていう楽しみもありました。
それだけで勝手に親近感を持ってしまい、少しえこひいき気味に見てしまったかも。
(宇野千代さん、太宰治さん、原阿佐緒さん、住井すゑさん、柳原白蓮さん…)
舞台美術も、白井さんの時と同じ方が担当されており、
またあのときとは違った作風で、
不気味で奇怪な中庭の風景を見事に再現されていて、
作品の意図に合わせて的確に仕事をされる方だなと思いました。

台本も、演技表現の可能性を目一杯引き出した、素晴らしいものでした。
随所にちりばめられたユーモアには思わず笑わされましたし、
舞台が中庭に固定されているにもかかわらず、
少しも飽きさせることのないスピーディーな展開、
それぞれの場面のポイントの深さなど、見所が満載でした。
また流れるようなセリフのリズムとともに、
文学的な言葉が次から次へと飛び出す様子は快感でした。

作品のテーマは生と死、誕生と再生であったと思います。
質屋の中庭に囚われ、まるで死んでいるように生きる語り部たちが、新たに誕生すべく、
物語であったり、短歌であったり、古典であったりを激しく模索し、
しかし僅かな先には、否応なしにやってくる死がある。
再生への試みを繰り返すことが生きることであり、
それを極めることが即ち、死を受け入れることだという気がしました。
中庭に囚われた作家たちは虚構ですが、実際それぞれの作家たちにとっても、
書くことは、生まれてきてしまったことへのけじめであったのではないでしょうか。

たまに行った舞台でしたが、運良く大当たりでした。
いままで演劇に足を運ばなかったのは勿体なかったかと反省。
今後は演劇の方にもちらちら視線を送って行きたいと思います。
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