Sep 18, 2006

ご厚意により、

「エズラ・パウンド長詩集成」城戸朱理訳編(思潮社)が手許にあります。
内容にはまだ目を通していないのですが、この本の表紙のイラスト、
当然パウンドの肖像であるとは思いますが、二十世紀前半に活躍したイタリア人指揮者、
アルトゥーロ・トスカニーニにそっくりです。
…パウンドはアメリカ人でもイタリア系なのでしょうか。

トスカニーニは、フルトヴェングラー、クナッパーツブッシュなどと並び、
二十世紀を代表する名指揮者です。
芸風は、上記二人が楽譜を大きくデフォルメした曲線的な演奏であったのに対し、
ほぼ楽譜の指示通りに演奏する直線的な演奏。
しかしだからと言って杓子定規のつまらない演奏ではなく、疾走感に溢れ、
歌い上げるようなカンタービレがとてもかっこいい。
日本では圧倒的にフルトヴェングラーに人気が集中しているようですが、
私はトスカニーニの方が好きです。

このあたりの指揮者の録音は1920年代から50年代までですので、
音が悪いのが難点ですが、フルトヴェングラーを一度聴いてみようと思うなら、
私はそれよりも先にトスカニーニを聴くことを薦めます。
というのは、演奏される曲が本来どんな曲なのかを予め知っているのならいいのですが、
そうで無い場合、フルトヴェングラーの演奏は非常に特殊であるため、いきなり聴いても、
曲の元形が十分わかっていないと、なにがどうすごいのかがわからないと思います。
私の場合、クラシック音楽を積極的に聴き始めた頃、「運命」とか「田園」とか「第九」
などの超有名曲は流石に知っていましたが、しかしその程度でした。
で、なにかの本でフルトヴェングラーのベートーヴェン交響曲第三番「エロイカ」の
ライブがすごい、というのを読んで、早速CDを買ってきて聴いてみたのですが、
何処がすごいのかよくわかりませんでした。
なにせ「エロイカ」は元々非常に複雑な曲である上、フルトヴェングラーはこの曲を
思いきりデフォルメして演奏しているのです。
それからしばらくして、今度はトスカニーニで「エロイカ」を聴いたのですが、
こちらの演奏は曲の輪郭がはっきりと掴め、「エロイカ」という曲がどういう形をして
いるのかがわかりやすく、初めてこの曲がいい曲だったことを知りました。
そのあたりから私はトスカニーニのCDを随分と買い集め、トスカニーニでまず曲を
知ってから、他の人の演奏も聴いてみる、という感じでクラシック音楽を聴き進めて
きたのですが、多分正解だったと思います。

トスカニーニは始めチェロ奏者でした。
彼は極度の近眼であり、譜面台に置いた楽譜が見えなかったため、楽譜を丸暗記していました。
ある公演旅行の際、オーケストラの指揮者が急病となり、急遽代理の指揮者が必要になったのですが、
そう簡単に見つかるはずもなく、するとオーケストラの仲間が
「あいつ、楽譜全部知ってんだから、指揮も出来るんじゃね?」
ということでトスカニーニが指揮台に立つことになり、やって見ると公演は大成功、
それからトスカニーニは指揮者に転向しました。
彼はそれからオペラを中心にぐんぐんと名声を上げ、イタリアの国民的指揮者にまでなっていきますが、
時はファシズムが台頭する1920年代。
ファシズムを毛嫌いしていたトスカニーニは、自分の音楽が政治に利用されることを拒絶し、
政府に対し猛烈に抵抗、結局アメリカに渡ってしまいます。
直線的なかっこいい演奏をするトスカニーニはアメリカで大歓迎され、
ニューヨーク・フィルの主席指揮者に就任、アメリカ国内だけではなく、ヨーロッパ遠征などもこなし、
精力的に演奏活動を展開します。
1936年、69歳のとき、高齢を理由にニューヨーク・フィルの主席指揮者を退きますが、
カムバックを求める声は高く、今度はNBC交響楽団と言う、当時普及し始めたラジオ
放送を中心に活動をする新しいオーケストラの主席指揮者に就任、演奏活動を続けます。
この時期彼は数多くの録音を残しますが、1954年、トスカニーニ87歳のとき、
コンサート中、ワーグナーの曲を演奏している際、突然彼に異変が起こります。
いつもは自信に溢れた姿で演奏するトスカニーニが、曲の途中で急に自信なさげな様子になり、
目は宙を泳ぎ、指揮棒を持つ手は機械的に振られるだけ。
実は、完璧に記憶されている筈の楽譜が、トスカニーニの頭から突然すっぽりと抜け落ち、
真っ白になってしまったのです。
なにしろ87歳と言う高齢、楽譜を失念してしまうのも無理はないのでしょうが、
記憶力に絶対的な自信を持っていた彼にとって、これ以上のショックはなかったのでしょう。
演奏が終わると、その場で彼は聴衆に向かって引退を宣言し、二度と指揮台に登ることは
ありませんでした。
1957年、89歳、家族に看取られて永眠。

CDは現在、NBCの演奏がBMGジャパンから、
ニューヨーク・フィルの演奏がNAXOSから出ています。
繰り返しますが、音は非常に悪く、当然モノラルです。
どちらかといえば年代の新しいNBCの方が聴き安いかと。
またNAXOSは3~40年代中心でありながら一枚1000円という廉価、
商業録音の聡明期の雰囲気が知られるという意味でも、面白いかもしれません。
もひとつ、SPレコード復刻専門レーベル「Opus蔵」からも、数枚のCDが出ています。
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