Nov 06, 2006

オルペウス オルペウス

思潮社から刊行中のシリーズ「新しい詩人」の中の一冊、
斉藤倫さんの第二詩集「オルペウス オルペウス」を読みました。

斉藤さんは、とても優しく親近感の持てる作品を書く方です。
第一詩集の「手をふる 手をふる」(あざみ書房)も、読みながらだんだん心が柔らかくなっていくような、
白い綿のような感触を持つ詩集でした。
今回の詩集はその特徴を受け継ぎながらも、連作長篇詩という形に挑戦されています。
タイトルになっているオルペウスは、ギリシャ神話に登場する吟遊詩人の名前であり、
悲劇的な運命を持つキャラクターですが、この詩集に現われるオルペウスは、
斉藤さんの中に住んでいる、あるいは誰の中にも住んでいる小さな友人のようです。

普通の街で普通に暮らして、普通に悩みや葛藤などと戦っている普通の人。
そんな人の中にこっそり潜んでいる勇敢な吟遊詩人オルペウスは、人がなんらかの現実、
恋や人間関係の摩擦などとぶつかった時、突然現われ、詩人の目で現実に対峙し言葉を発します。
その言葉は、現実に振り飛ばされてしまいそうになった自己を支え、
しっかりと両足で立たせる役割を担っています。

斉藤さんとオルペウスの共同作業のようにして書かれた作品群は、ユーモアにあふれていて、
現実に打ちのめされたときに泣いていたって仕方がない、洒落のめして前に進むしかない、
と言っているようです。

オルペウスは、普通の人の現実において詩を発しますが、
やがて何を思ったのか、ふと自分の物語を語り始めたりします。
オルペウスと関係の深い者たちの名前を交えて、ギリシャ神話にある出来事を語るのですが、
斉藤さんの手を借りたそれは、確かにギリシャ神話なのですが、
なんだか宮沢賢治の童話のように親近感があります。
キャラクターも神話の登場人物というよりも、かにとか、さるとか、いぬとか、
日本むかしばなしに出てくるどうぶつたちといった風情。
しかし根底にある痛みや苦しみといったものはそのまま流れ続け、
いま現実と対峙する普通の人の内面へと流れつきます。
人は痛みに叫び、死を見詰めすらしますが、それを表すオルペウス(斉藤さん)の言葉は、
やはり白く柔らかいもので、そんな詩が流れる中、また人は普通の日常へと帰っていくのです。

この詩集を読んでいると、普段見慣れた日常の雑踏をいく人々の風景が、
きれぎれのオルペウスの言葉に満ちているように感じられてきます。
みんなそれぞれいろいろな悩みを抱えているけれども、
ひとの中に普遍的に存在するオルペウス的存在と手を取りあいながら、
なんとか生きているのだなあと思います。
自分を含めて。

というわけで、この詩集「オルペウス オルペウス」は、
いわゆるゲンダイシというのが苦手な方にお薦めです。
しかしもちろん薄っぺらいものではなく、
柔らかい言葉が心に何処までも何処までも染み込んでいく詩集です。
Posted at 01:28 in n/a | WriteBacks (4) | Edit
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