Sep 08, 2005

荒木経惟の写真集「空事」を購入しました。

2004年の1年間に撮った写真を順に並べて構成したものですが、ページを手繰っていくと、写真家の心の動きが見えてきます。
その中心となっているのは歌人宮田美乃里です。
彼女は三十一歳の時に乳がんの宣告を受け、三十二歳で左乳房を切除しました。
そして三十三歳のこの年、一本の大きな傷跡が残る裸身を、荒木氏のカメラの前に晒しています。
美しい女性です。
写真家は恋愛をしたようです。
彼女の写真が撮られたのは1月と3月ですが、それ以後に撮られた写真のすべてに、彼女が映りこんでいるように見えます。
この作品集のもうひとつの主役は空です。
荒木経惟は2004年、空ばかり撮っていたと言います。
実際この作品集の3分の1ぐらいは、空の写真です。
捉えられた様々な空模様から、写真家の心情が伝わってきます。
それは底抜けに明るいアラーキーのイメージとは裏腹の、癒しようのない孤独です。
荒木氏の寂しさや悲しみは、モデルの身体や街の風景には写りこまず、ただ空に浮かぶ雲の形にだけ写りこんでいるようです。
その孤独を助長したのが、翌年には他界してしまう歌人との、一瞬の恋愛なのでしょうか。
「冬の旅」「東京物語」などがそうであったように、この作品集は全体が一編の詩のようです。
一枚一枚の写真は写真家の真情の吐露であり、その連なり様はむしろ詩句よりも深く語ります。
こんな詩が書ければ、私も胸を張れるのでしょうが。
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