Sep 23, 2006

ちょっと前に、

伊坂幸太郎の本を数冊紹介しましたが、
相変わらず読んでいるもんで、続き書きます。

「アヒルと鴨のコインロッカー」(東京創元社、2003年)
長編作品。
舞台は伊坂作品共通の仙台。
生まれて初めて一人暮しを始める主人公の部屋に、奇妙な隣人がたずねて来て、
いつの間にやら本屋を襲う手伝いをさせられる羽目に…というところから話が始まり、
過去と現在が交錯しながら、見事に両者がつながっていって、最後は思いがけない
どんでん返しが待ち受けているという、非常に質の高いミステリー作品です。
のほほんとした雰囲気でありながら、あまりに緻密なストーリー組み立てである上、
全ての要素が最終的にひとつにまとまっていくので、内容は書けません。
読んでください。
「ダヴィンチ・コード」よりずっと面白いです。
来年映画化の予定だそうですが、映像化はかなり難しい内容かと…。
吉川英治文学新人賞受賞作品。

「チルドレン」(講談社、2004年)
「小説現代」に掲載された作品をまとめた連作短編集です。
常識破りな家裁調査官と、抜群の推理力を持つ盲人を中心に、
ハートウォームなミステリーが五篇。
殺人はありませんが、さすがに一筋縄ではいかないストーリー展開であり、
あちこちにトラップがしかけられていて楽しめます。
いままでの長編では結構ハードな心理が描かれていましたが、
この初短編集ではずいぶんと砕けた心理が描かれ、希望がテーマといってもいい内容。
全ての作品に共通することですが、伊坂幸太郎は人間を描くのが非常にうまいと思います。
この作品もまた出てくるキャラクターがみな魅力的で、これだけでお仕舞いになって
しまうのがなんとも残念。
読めば絶対続編が読みたくなります。
今年の五月、WOWOWで映像化。

「グラスホッパー」(角川書店、2004年)
書き下ろし長編。
一転して重いです。バンバン人が死にます。
主要な登場人物は三人ですが、何せそのうちの二人が、いわゆる殺し屋。
殺し方は読んでのお楽しみですが、一人はかなり変わっていて面白い。
こんな殺し屋見たことないっす。
しかしまあ重いといっても、ハードボイルドというわけではなく、
村上春樹的な柔らかさを保ってはいるのですが。
そう、村上春樹が好きな人は、この著者の作品は気に入るかもしれません。
そして伊坂幸太郎作品の特徴のひとつに、
哲学的な要素がセンスよくちりばめられていることがあるのですが、
この作品あたりからだんだんとその傾向が強くなります。
著者は哲学書、文芸書にかなり精通しているようで、
場合によってはちょっと鼻につくかもしれませんが、
ファンとしては、それも持ち味とすることにいたしましょう。

「死神の精度」(文藝春秋、2005年)
「オール読物」に掲載された作品をまとめた連作短編集です。
これは単純に面白い!
300ページ弱なので、一冊気軽に何も考えず読みたいとしたらこれでしょう。
主人公は音楽好きで一寸ずれてる妙な死神。
こいつの行動を見ているだけでも非常に面白いですし、
もちろんストーリーテラーとしての伊坂幸太郎の才能も存分に発揮され、
また人間群像劇としても、非常に質の高い作品です。
とにかく死神のキャラクターが面白く、前出の「チルドレン」と同様、
絶対続編が読みたくなります。
いまのところはないようですが、期待。
日本推理作家協会賞短篇部門受賞作品。

「魔王」(講談社、2005年)
書き下ろし長編。
またまた一転して重いです。
というか、政治が大きく絡んでくるという意味でも、
伊坂幸太郎作品の中では、かなり異質の作品。
これは決して一番最初に読んではいけません。
この著者を誤解してしまう可能性大です。
伊坂幸太郎が持つ哲学や思想がかなり大ぶりに表現され、
あるいは辟易してしまうかも。
伊坂幸太郎が好きになってから読むことをお薦めします。

今回紹介した作品は全てハードカバー、値段は1500円ほど。
本格的なものを一冊求めるなら「アヒルと鴨のコインロッカー」、単純に楽しめるもの
を一冊求めるなら「死神の精度」がいいと思います。
実はこのあとの作品「終末のフール」も読了しているのですが、
それはまた今度、残りの二作品といっしょに書くことにします。
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