Feb 27, 2006

それぞれの時間

車いすを押して歩いた
そんな日があった
Oくんはひざかけをして
「石川さん、こんにちは」と云った

「こんどな お父さんと…奈良いくねん」
寒い道だ
空が透明な血のかたまり
ぼくは夢の中を歩いている気分だ

そうなんや ええなあ
車いすの背中から
ぼくはそう云って いくつかの
曲がり角を曲がって
段差でガタンとならないよう気をつけながら
グループホームについた

ただいま
靴を脱がせる
Oくんの指先がけいれんしている
バンドをはずし 上着を脱がせ
室内用車いすにうつしかえる
ちょっと気つけてや
「わかった」
それから部屋まで押していく

ダイニングの床をとおりすぎ
同居人のHさんはテレビつけっ放しにして
ねている

Hさん 帰ったで
「Hさん何してんの」

Hさんは「いやん」と言いながら
起きて笑って近づいてくる
Hさんは40代で
仕事もしていたが挫折した人だ
酒には時々だらしないが
人間はできている人だ
度のつよいメガネをふく
スラックスにセーター
知的障害者で大卒だ

みんなでTVをみる
「まだ阪神はじまらへんの」
うん、今、冬やしな
「阪神優勝するかなあ」
「せえへん」とHさん
みんなで笑いあったり
ぼくは後から来た介護者と
米をたいたり 洗濯物を取り込んだり

Oくんが「おしっこ」という
だからぼくは「おしっこ」をとりにいく
静かな時間が流れる



流れた

もう4年もたった
どんどんわからないことが増える
みんなで過ごしたことも
その意味も確かにあるのだけれど

歯が浮くような疑問だが
障害って何だろうね
ぼくも病んだ心をもった
まっすぐに伸びる手
折れまがっていく
段差もあるけど
段差だけじゃないだろう

もう一度お話できるか考える
そのあとさきにふれる
今はこうとしか書けない
とてももどかしい

でも記憶は生きているんだ
Posted at 16:59 in poem | WriteBacks (0) | Edit
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