Jun 25, 2008

許せない時に-石原吉郎の言葉から感じたこと

冒頭にまず詩人石原吉郎の言葉を置く。

人間が蒙るあらゆる傷のうちで、人間によって背負わされた傷がもっとも深いという言葉を聞きます。私たちはどのような場合にも一方的な被害者であるはずがなく、被害者であると同時に加害者に転じうる危険に瞬間ごとにさらされています。そういう危険のなかでなおかつ人間の深い連帯の可能性(…)を見失わないためには、人間はそれぞれの条件的な、形式的な結びつきから一度は真剣に自分の孤独にたちかえって、それぞれの孤独のなかで自分自身を組み立て直すことが必要であると思います。深い孤独の認識のみが実は深い連帯をもたらすものだという逆説をお考えになってください。
(「肉親へあてた手紙-一九五九年十月」石原吉郎)

 最近川本隆史『共生から』(岩波書店)を読んでいて、この文章が目に留まった。

 僕が述べたいと思っていた事柄を石原はとてもシンプルに書いています。これはほぼ五十年前の文章なんだけれど、全く今でもいける。石原の文章を読んで今感じたことを書いていきます。
 例えば殺されるまでいかずとも、生きていて一度や二度、深く人に怒られ憎悪されバカにされ、それに深く傷ついた人は多いのではないかと思います。
 僕も同じで、昔、僕を深く傷つけた相手をひどく呪い、忘れられない思い出があります。

 しかし、人を恨み、あいつなんかいなかったら良かったと呪っていたら、生きるのがとても苦しかった。だからといって、その人を許しそうとしても、難しい。周りの言うとおり怒りを感じないようにしたら、気が変になりそうだった。
 だから、傷つけた相手を許すというのは、実際しにくい。石原の文章も、許すということは書いていません。なぜなら被害を感じるということ自体は人として変じゃないからです。

 けれども、呪ったり、呪うのをやめたりを繰り返す場所にい続けることは大変苦しい。そのことは僕の場合実感しました。けれど、急に世の中すばらしいとは当然なりません。
 石原は素晴らしくないこの世界で生きるにはどう考えたらいいか、何も答えは言いません。

 けれども、自分が苦しみ、呪い、相手の存在をどうにかふり払いたいと思うとき、かつて自分を傷つけた人の心に似た状態に自分もなっているのではないかと私は感じます。 自分が苦しいということから、いつのまにか誰かを苦しめたい・いじめたいという攻撃性が生まれてしまうことがあります。けれど、それを本当に実行したら、自分が苦しんだりよろこんだりしている大元の「生きる」が消えてしまう。僕は別に自殺のことをいっているわけではないんだけど、 「苦しい」を消したいということから、なぜか、苦しいといっている自分や赤の他人を傷つける方向に行くのには、何か途轍もないすり替えがある。そのすり替えは暴力だろうと思います。
個人的にその「すり替え」が僕はひっかかります。自分に対して。人に対して。それは、僕自身が八つ当たりすることもあるし、自罰的な気持ちが高じていつのまにか誰かのせいにしている・あるいは自分をいじめていることがありがちだからです。

 石原は「自分の孤独にたちかえって」といいます。僕の言葉では、「私は苦しい」という地点に留まって、何が苦しくて、その苦しみはどこからくるものか感じてみるということ。それは苦しい作業で全くきれいごとでなくて、そうしないと何も納得できないし腑に落ちない。僕はそういう感じの人です。もちろん、誰かに傷つけられて失ったものは元に戻らない。けれど、何かを取り返すという形でなくても自分が「こうだな」と感じられることがひとつでもあれば、そう感じられた時点で生きられる気もしています。

 石原の文章は、ベースに「善人であれ」という命令を置きません。俺だって「ろくでもない」人間になりうる。それくらい、人間は恐いものだという認識が元にあると思います。それは、他人も変わらない。だとしたら、嫌なことは多いはずで、でもしじゅう苦しいだけではないよな、なんでかなという地点からはじまっていると思います。

 けれど石原は晩年深くアルコールに蝕まれ、この文章から20年弱でその生涯を終えます。だから、この件に理想的な、あるいは完全な答えなんてないだろうなと感じるのですが。

   川本隆史は石原が学生にどう生きるべきか問われ「丁寧に生きよ」といったといいます。どこか丁寧に感じ考えて、とりあえず限界まで行けたらなとはよく思っています。けれども、実際は大雑把な感じでやっています。でも、苦しいときは一度きっちり自分のことを思い思いやると、そっから抜け出せることが多い気がしています。経験上。
Posted at 12:45 in nikki | WriteBacks (0) | Edit
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