Feb 22, 2009

プロヴァンシアル(田舎の友への手紙)「第16の手紙」・パスカル

pascal

この本との出合いはここから始まった。

天声人語 2009年1月20日(火)

 短いコラムを書きながら言うのも気が引けるが、ものごとを簡潔に述べるのは、そう簡単ではない。長い文より苦心することも多い。「今日は急いでいるので長い手紙になってすみません」。そう断って書き出した西洋の賢人がいたのを思い出す▼スピーチにも似たところがある。「1時間の話なら今すぐ始められるが、10分の話は準備に1週間かかる」と、これは米国の28代大統領ウィルソンが言った。ノーベル平和賞を受けた人で、なかなか雄弁家でもあったらしい▼さて、オバマ次期大統領の就任式が明日(日本時間)に迫り、かの地の盛り上がりは最高潮のようだ。祝祭的な華やかさは戴冠式を思わせる。そして就任演説を、米国だけでなく世界が耳を立てて待つ。その演説は長いだろうか、それとも短いのだろうか▼長きがゆえに貴からずの模範は、オバマ氏が仰ぐリンカーンのゲティズバーグでの演説だ。「人民の、人民による……」で知られる不朽の演説は272語、わずか3分だったと伝えられる▼直前に登壇した弁士は2時間の大演説をぶったが、こちらはとうに忘れられた。短さゆえというべきか。リンカーンの言葉は言霊を宿したかのように聴衆をゆさぶった。オバマ氏も十分意識しているに違いない▼あのケネディもリンカーンをお手本に就任演説を練り上げた。「私は」ではなく「我々は」を多く用いた若々しい15分は、歴代で何番目かに短く、名演説の誉れが高い。世の憂さはしばし忘れて、これも歴史に残るであろう明日の演説を興味津々待つとする。


 このアサヒ・コムの「天声人語」に、思わせぶりに書かれた「西洋の賢人」 とは誰なのか?気になっていろいろ調べたり、友人に尋ねたり・・・とうとう1月24日の 午後、アサヒ・コムに直接問合せしました。お返事は以下のとおりです。早い対応で した。感謝いたします。

朝日新聞をご愛読いただきありがとうございます。
アサヒコム・読者窓口へいただいたメールですが、
朝日新聞社の窓口である東京広報部から返信いたします。
賢人は「パスカル」です。「プロヴァンシアル」(田舎の友への手紙)の中の「第16 の手紙」に書かれております。これからも朝日新聞をよろしくお願いいたします。

朝日新聞社 東京本社広報部  2009年1月24日-16:18

さて、ここから本さがしが始まりました。

 「田舎の友への手紙―プロヴァンシアル―:森有正訳:白水社」というものが県立 図書館にあることをネットで探しあてて、地元の図書館に回送して頂きました。2月7 日、わくわくしながら受け取ってびっくり!昭和24年の本で、セピア色になった本で した。よくぞご無事で。。。しかしながら、この本は原文を翻訳したものではありま せんでした。「森有正訳」ではなくて、全文彼の解説と考察でした。ううむ。もう一 度仕切り直しです。記念写真を撮っておきました。「第16の手紙」はこのようなもの です。

p-2

 友人が教えて下さったことを頼りに、2月12日に「パスカル著作集・第4巻・プロヴ ァンシアル・教文館:1980年6月刊」をやっとつかまえました。お隣の市立図書館から まわってきました。この「第4巻」に「第16の手紙」が収録されていました。奥付を見 ましたら「配給元・日本キリスト教書販売株式会社」というものがあります。「発行 所・株式会社教文館」とも。「配給元」と「発行所」はどう違うのか?それは出版専 門家にお任せするとして、この手紙は「ジャンセニスム(パスカル)」対「イエズス 会(ジェジュイットの神父たち)」との宗教論争であることから、少しは察しがつく ようだ。

 アサヒ・コムでは「書き出し」に置かれていたような表現でしたが、実は手紙の最 後の部分に書かれているのでした。この手紙の最後にはこう書かれています。
 「尊敬します神父さま、わたしの手紙がこんなに間なしに出されることも、こん なに長くなってしまったことも例のないことです。わたしにわずかな時間しかなかっ たことが、このどちらの原因でもありました。この手紙がいつもより長くなってしま ったのはもっと短く書き直す余裕がなかったからにほかなりません。急がなければな らなかった理由については、あなたがたの方がよくご承知です。(以下略)」と いうことでした。

 手紙は「パスカル著作集」の第3&4巻にわたり、19通の手紙から構成されています が、10通までは「田舎の友への手紙」となっていますが、パスカルが11通からは「田 舎の友への手紙の作者が、ジェジュイットの神父がたにあてて書いた」という前書き の付された手紙となっています。そのなかで最も長い手紙が「第16の手紙・1656年12 月4日」だったということでした。「ジェジュイット」による「プロヴァンシアル」弾 圧を予想しつつこの手紙は書かれています。

   「ジャンセニスム」は17世紀以降流行し、カトリック教会によって異端的とされた キリスト教思想。「ヤンセニズム」ともいわれる。神学者コルネリウス・ヤンセン (1585年-1638年)の著作『アウグスティヌス・1641年』の影響によって、特にフラン スの上流階級の間で反響を呼び、その人間観をめぐって激しい論争をもたらした。
 パリ郊外の女子修道院「ポール・ロワヤル修道院」が「ジャンセニスム」の拠点と なり、これにイエズス会員たちが反論したため、以後、ジャンセニスム対イエズス会 という図式が出来上がっていく。当時のフランスで「ジャンセニスム」に傾倒した著 名人の中に「パスカル」がいて、彼は「ジャンセニスム」への批判に反論して1656年 に「プロヴァンシアル」を執筆しているということです。その後「ジャンセニスム」 は歴史のなかで幾度も激しい論議の元となり、歴史のなかを彷徨うことになるようで すが、そこまではとても書きつくせません。

 訳者の「あとがき」には・・・・・・
 『異国の、それも300年前の特殊な時代的背景の前で展開される宗教論争であるが、 (中略)パスカルのいきいきとした筆づかいにのせられて論争の渦中へ身をおいてみ ると、わくわくするようなおもしろさに次々におそわれずにはすまないほどである。 強大な権力をわがもの顔にふるっている、尊大で、しかつめらしい連中が「落ちた偶 像」の醜態をさらすのは、いつの世でも大衆から拍手喝采をもってむかえられる。ジ ャーナリスト「パスカル」はそういう読者大衆の野次馬心理をちゃんと心得ている。 パリの一般市民が、出版のつど「プロヴァンシアル」を争って読んだのは、いうま でもなく著者の卓抜な才覚の思わくにはまったからだ。」・・・と書かれています。

  *  *  *

「パンセ」より。

☆ 隷従は迷信に通じる。このどちらもが宗教を破滅に導く。
☆ 真理が破壊されているときに、平和のうちに安らっているのもまた罪であることは明らかである。

《追記》
「教会こそ、イエスがそれに反対して説教し―またそれに対して戦うことをその使徒たちに教えたもの、まさにそのものである。」    (ニーチェ・「権力への意志」)
Posted at 23:02 in book | WriteBacks (5) | Edit
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