Apr 04, 2009

不思議な少年 マーク・トウェイン

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 マーク・トウェインはこの小説を1890年頃から書き始め、20年後に亡くなるまで何度も改稿し、それによって複数の原稿が残されている。どれも未完成ですが、「サタン」を象徴とする少年が登場する点で共通している。

①The Chronicle of Young Satan。
1702年のオーストリアの村を舞台に、サタンの甥である「サタン」が主人公。しかしこの原稿は、インド旅行中断している。

②Schoolhouse Hill。
舞台を『トム・ソーヤーの冒険』に合わせ、トム・ソーヤーや、ハックルベリー・フィンを登場させている。主人公の少年の名前は「第44号」となっている。これは残された原稿の中で最も短い。

③No. 44, The Mysterious Stranger。
舞台を1490年のオ-ストリアの古城とし、「第44号」と名乗った少年は古城の中の印刷工場で働くことになっている。この版は3つの中で最も分量が多いが、完成していない。

 現在広く知られている「不思議な少年」は、マーク・トウェインの死後、遺産管理人のアルバート・B・ペインが1916年に出版した「Mysterious Stranger, A Romance」である。これはペインが①の原稿を基に③の結末を付け加えたもの。1937年にペインが死亡し、遺産管理人となったバーナード・デヴォートが、1960年代になって「トウェイン」のすべての原稿を公開して、1916年の作品はペインの手が加わったものだと判明した。


 少年「テオドール」が語るこの物語は、1590年5月、オーストリアのエーセルドルフ(Eseldorf 、ドイツ語でロバの村、すなわち愚者の村)に、自らを「サタン」と名乗る、年齢は1万6000歳の少年が現れることからはじまる。その物語のなかで語られる下記の言葉が魅力的でしたので、そこだけ抜粋しました。


 『未開人にしろ文明人にしろ、大多数の人間ってものは、腹の底は案外やさしい。人を苦しめることなんて、ほとんどできやしないんだ。だが、それが攻撃侵略的で、まったく情け知らずの少数者の前に出ると、そういう自分を出し切る勇気がないんだな。・・・・・・戦争を煽るやつに、正しい人間、立派な人間なんてのは、いまだかつて1人としていなかった。僕は百万年後だって見通せるが、この原則に外れるなんてことは、まずあるまいね。あっても、せいぜい5、6人ってところかな。いつも決まって声の大きなひと握りの連中が、戦争、戦争と大声で叫ぶ。すると、さすがに宗教家どもは、はじめのうちこそ用心深く反対をいう。国民の大多数も、鈍い目を眠そうにこすりながら、なぜ戦争などしなければならないのか、懸命になって考えてみる。そして心から腹を立てて叫ぶのだ。「不正な戦争、汚い戦争だ。そんな戦争の必要はない」ってね。するとまた例のひと握りの連中が、いっそう声をはり上げてわめき立てる。これも少数だが、もちろん戦争反対の立派な人たちはね、言論や文章で反対理由を論じるだろうさ。そして、はじめのうちは、それらに耳を傾けるものもいれば、拍手を送るものもいる。だが、それはとうてい長くは続かない。なにしろ扇動屋のほうが、はるかに声が大きいんだから。やがて聴くものもいなくなり、人気も落ちてしまう。すると今度はまことに奇妙なことがはじまる。まず戦争反対論者たち石をもて演壇を追われる。そして凶暴になった群集の手で言論の自由は完全にくびり殺されてしまう。・・・・・・そう、教会までも含めてそうなのだが、いっせいに戦争、戦争と叫び出す。そして、あえて口を開く正義の士でもいようものなら、たちまち蛮声を張り上げて襲いかかるわけだ。まもなくこうした人々も沈黙してしまう。あとは政治家どもが安価な嘘をでっち上げるだけさ。まず被侵略国についての悪宣伝をやる。国民は国民で、うしろめたさがあるせいか、それらの気休めにこれらの嘘をよろこんで迎えるのだ。こうしてそのうちにまるで正義の戦争ででもあるかのように信じこんでしまい、この奇怪な自己欺瞞のなかでぐっすり安眠を神に感謝することになるわけだな。』
Posted at 22:36 in book | WriteBacks (0) | Edit
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