Jul 04, 2005

高田昭子日記 2004年8月

2004/8/23(mon)
夏の名残り



桐田さんからの定期便「断簡風信」187号が届く。彼の膨大な読書メモである。その本の紹介文を読んでいると、わたしも読んだような錯覚に陥るほど、彼の解説は適切である。しかし今回の封筒の手触りはいつもの違う。予告通り桐田さんはその便箋の間に「線香花火」をしのばせていたのだった。便箋はかすかに「火薬」の匂い……う〜〜む。「爆発物取締り法違反」にひっかかりそうな(はは!)贈り物である。もしも警察犬がいたら噛みつかれるやもしれぬ。


夜、外に出るととても涼しい。もう秋がきているようだ。夏の名残りの花火遊びをしながら、「うふふ!これは燃えるようなお便りだな。」とひそかに思う。ただし、わたしだけに送ったものではないのだ。念の為。



   手花火を命継ぐごと燃やすなり   石田波郷



2004/8/14(sat)
高校野球


「高校野球」はどこも応援しない(笑)けれど、懐かしい思い出がある。わたしの亡父は県立高校の教師でした。父の在職中まぐれ当たりみたいに2回ほど甲子園出場がありました。もちろん2回とも1回戦負け。それでも選手たちの出場費用捻出のため、父は地元の事業主、商店会などに頭を下げてまわりました。応援旗はこれまた祖父の機屋から布地の寄付を頂いて、母が縫いました。ずいぶん大きな旗を作ったと思ったのに、テレビで見たら、応援団長の洋服店主の振っていたその応援旗は地味で小さなものだった。宿泊先の旅館の試合前日のメニューは「ビフテキ」と「とんかつ」つまり「敵に勝つ」だそうです。
1回戦で帰ってきても商店街では選手たちを車に乗せて市中パレードもしました。選手は泣いていましたよ。
何故か父はいつも引率担当でした。


それでいつも高校野球の季節がくると心配になるの。優勝まで勝ち進む高校では、どうやってそのたくさんの費用を捻出しているのかな?って……。



2004/8/13(fri)
「詩屋さん」ってどうだろう?


一人の詩人が著名であるか否かの判断はできない。とりあえず思潮社の現代詩文庫のシリーズに入った詩人は「著名」であるという「線引き」をしておこうか?この「線引き」だって相当危ないものだけれど、とりあえず。あ、それとも「選者」とか「講演」とか「教授」とかも???


過日、ある初対面の方から「あなたはプロの詩人ですか?」と質問されました。返事に困ったわたしは、そばにいらした詩人Y氏(この方はかなり著名です。)に「プロの詩人っていますか?」とお話をふってしまいました。Y氏曰く「詩人にプロはいません。」そうです。「詩でメシが食えないのですから、プロではありません。」そうです。そうです。


大方の詩人は詩集を自費出版している。運良く受賞して賞金などを頂いたとしても元が取れないのが現実である。言いかえれば、出版資金さえあればどんな贅沢な詩集も思いのままに出版できるし、優れた才能を持ちながら詩集を出せない貧乏な詩人もいるということです。知人の編集者から、この詩集の自費出版という現状にこんな批判を頂いた。


T氏曰く「誰でも出せるという自費出版が横行するから、詩の世界は底辺ばかりが増大するのだ。自費出版には節操がない。それを食い物にしている自費出版専門の出版社など《ゴミ》だ。くだらん詩集ばかりを氾濫させるな。」貧乏詩人のために安価で詩集を作って下さる有難い出版社だってあるぞー。


A氏曰く「たった300冊乃至500冊程度の詩集の自費出版に、なんの疑問も抱かない詩人たちは一体何を考えているんだ。しかもその詩集のほとんどは詩人の狭い世界を「謹呈」という形で巡っているのが現状だ。一度、ベストセラーの詩集などありえないという固定観念を捨てて、挑戦してみる気はないのか?詩をメシの種にしてみろ。」月に一編の詩を書いたら、メシ食える生活!ああ、夢みたいだ。その夢を実現させてよー。


編集者もさまざまである。言いたいこと言ってろ。


しかし、わずかながら詩集は売れているのだが「印税」というものを頂いたことがないのだ。その点については、T氏もA氏も「まぁ、仕方がないよ。」と寛大になるのだ。矛盾していないか?


   その明るくて暗闇みたいな詩屋さん
   日暮れどき
   ご隠居さんになりたいと思いながら
   店番している


(詩集「砂嵐」の作品「詩屋さん」より抜粋。)



2004/8/11(wed)
念の為。


8月4日のやんまさんの俳句の掲載は、事前にご本人の許可を頂いております。



2004/8/8(sun)
お祝いの会


8月6日夜、国立の旭通りにある音楽茶屋「奏」にて、水島英己さんの詩集「今帰仁で泣く・思潮社刊」の「山之口獏賞」の受賞のお祝い会があり、出席させていただきました。出席者のほとんどがお名前は存じ上げているけれど、お目にかかったことのない方々なので、少し緊張。第一本人の水島さんもBBS上でお話をしただけで、お目にかかったことがないのです。けれども彼の詩に対する姿勢の熱さ、真摯さが奇妙に気になる方だったこと、お世話役になっておられる方のなかに知り合いの関富士子さんがいらしたことが出席を決心させてくれました。


それでも何故?それは多分、詩人団体にはほとんど所属せず、「個人詩誌」しか発行せず、それすら休刊して、HPだけで発信している「ひきこもり」のわたし自身を、新しい人間世界に出してやろうという気持だったのだと思う。「一人でいいか?」と自問するために人に会いに行ったのかな?


途中の乗り換え駅でバッタリ関さんに会って、ホッとした。二人で少しだけ迷いつつ「奏」に無事つきました。帰りも一緒、わたしは「金魚の糞」でした。
水島さんのお祝いには、20数人の方がいらした。水島さんは真面目であたたかな方だった。そしてお名前とお顔がやっと一致した方々ともお話をして、とても居心地のよい会でした。水島さんのお人柄のためでしょう。水島さんの言葉は、山之口獏の故郷である琉球の熱い太陽と独自の歴史と風土性が産んだように思う。以前からわたしは一人の詩人の言葉の感性を方向づけるものは「産土」ではないかと思っていたが、それを確信したような気持だった。人間はみずからの「生い立ち」からは逃れられない。諦念としてではなく、ね。


  生い立ちは誰も健やか龍の玉    村越化石


改めて、水島英己さんおめでとうございます。
新しく出会えた方々、幾度か出会っている方々、小さなわたしを覚えていてね。



2004/8/4(wed)
こひぶみ


7月31日、俳句文学館において、清水哲男さんが続けていらっしゃる「増殖する俳句歳時記」の八周年を記念して、初めての懇親句会が催されました。その折に俳人の「やんま」さんに初めてお目にかかりました。やんまさんは、哲男さんが午前零時を境に毎日一句挙げられる俳句のなかから言葉を選んで、早朝にはその言葉を織り込んだ一句を作られるという離れ業を続けてこられた方です。そのやんまさんにわたしの詩集「砂嵐」を読んでいただきました。


31日に詩集をお渡しして、翌日8月1日には、その詩集の全作品32篇に俳句を付けて下さって、2日には投函、4日にはわたしの手元に届きました。メールではなくてお手紙ですよー。嬉しい嬉しい韋駄天走りの「こひぶみ」でした。ではその32句をご紹介いたします。俳句は詩集の目次順になっています。念の為。


  「砂嵐」拝読芽藻  やんま


   水色の水へ落ちゆく月うさぎ
   言の葉の楽し悲しと夏の凪
   水の音楽しと思ふ秋ひとり
   詩屋さんへ夏の性器をくださいな
   赤頭巾ふかふかのパン木の芽合へ
   誰ですか春の一日鳴きくらす
   収穫のぶどうの種を呑み込みぬ
   幾度の春の暦のほろ苦し
   夜の更けて羊を打てばめへと泣く
   羽ばたきを片陰に聞く淋しさよ
   知らぬ間に春の海辺に泣いている
   もふ遠ふに忘れた駅や夢おぼろ
   眼差しや愛の仕方へ晩夏光
   爪切って猫背をあげて葡萄吸う
   花茎にある不整脈とつとつと
   雨季の花色定まらぬ爪の色
   ふたりして見てる黄色砂嵐
   百年を叩く驟雨の破れ船
   空席に果実が一つ終列車
   死にたまふ母も私も春の修羅
   砂のくに記憶の海の大夕焼け
   骨のこと耳に残りて春の潮
   母もまた春の鼓動を恐れしか
   冬の父許し許され息ふかし
   古井戸に少女の西瓜浮かびけり
   冬の火事消えてしずしず消防車
   みんなゐてお茶の時間ににわか雨
   赤ちゃんの列の記憶や花の下
   川はまた橋と交叉し夏の渦
   水とめてひとり夜食に向かひけり
   ぶらんこをゆすればこの世軋みけり
   空の耳聞こえませんか合歓の風

   
以上です。やんまさま、ありがとうございました。

 
   花茎にある不整脈とつとつと
   母もまた春の鼓動を恐れしか


この2句にやんまさんのお母様ゆずりのご病気が心配されます。暑い日々ですので、どうぞご自愛くださいませ。

Posted at 11:40 in diary_2004 | WriteBacks (0) | Edit
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