Sep 19, 2006

犬のしっぽを撫でながら   小川洋子

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   (photo by KIKI.....u u u)

 この六一編のエッセー集のはじめには、小説「博士の愛した数式」の書かれた動機について記されています。そのきっかけは数学者藤原正彦の「天才の栄光と挫折・数学者列伝」にあったとのことです。たしかに藤原正彦の文章は(「国家の品格」以外!)明確で魅力的です。数学の苦手だった小川洋子は数学の美しさ、ゆるぎない正しさ、果てしのなさに惹かれていったようですね。

 そして、その小説に出てくる博士が愛した少年「√」の誕生日を「九月十一日」としたこと、その誕生日のお祝いの夜にバースディー・ケーキが壊れたことの理由もこのエッセー集で理解しました。それは、小川洋子の作家としての出発点が「アンネ・フランク」だったということとどこかで繋がっているのではないか?という思いが立ち上がったからでした。
 また、「√」と小川洋子のご子息が共に「野球少年」であること。タイガース・ファンであることなどのほほえましい繋がりも見えます。また若い日にレース編みを学んだこと、その先生のお宅にはフェルメールの絵「レースを編む女」が飾られていたことから、この博士の美しい数式の比喩として、「レース編み」が何度か登場することにも納得できるものでした。小川洋子の素直なやわらかな(ちょっと夢見がちな・・・)感性をここに感じます。
 この小説「博士の愛した数式」の「読売文学賞」と「本屋大賞」の受賞はともかくとして、その他に「日本数学会出版賞」を受賞したということは、上等なジョークのようなお話ではないだろうか?

 それから面白かったのは「罵られ箱」という二ページ弱のエッセーです。ささいな他者の冷酷な言動によって、小川洋子はすぐに落ち込むらしい。そんな時にこの箱を開ける。これまでの人生のなかで受けたさまざまな非難の言葉と心静かに対面して、またその箱に収めるのだとか。その箱は詰めても詰めても満杯にならないのだとか。。。
 わたくしの「罵られ箱」の中身は、小川洋子より年長故大分増えましたが、さらにこの秋くらいには増えることでしょう。いくらでも入ると言う小川洋子のこの言葉を信じてみよう(^^)。

 エッセーはその他は省いてここでちょっと笑い話。。。「曲がった鼻」という短いエッセーのなかで、耳鼻咽喉科の検査に鼻から内視鏡を入れて、咽喉を調べる方法があるのですが、その時小川洋子は貧血を起してしまって、ドクターから「君の鼻は曲がっているねえ。」と言われたそうです。わたくしは同じ場面でドクターから「鼻の穴が小さいですねえ。」と言われたことを思い出してしまって、おもわずクスクスクス。。。鼻呼吸の上手い人間ほど集中力があるそうな。。。ふうむ。深く納得しました。

 (二〇〇六年・集英社刊)
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