Aug 15, 2006

贈答の詩① 足立和夫詩集『暗中』への挨拶詩

stendglass

 足立さんの詩集には魅力的な言葉が多々存在していました。その言葉は日常の実感から出発しながら、確かな詩語に手渡されていたと思います。そしてその詩語は読み手のわたくしに正確な重さを持って届けられました。わたくしは詩集評は書けないのですが、この詩集には、なにかを送りたかった。そんな思いからこの「挨拶詩」を書いてみました。この詩のなかには足立さんの詩集『暗中』と『空気のなかの永遠は』にある魅力的な言葉をいっぱい紛れこませてあります。

 【付記】この作品掲載については、足立和夫さんの許可を頂いております。


  奇妙な孤独

   君のなかには時間と実感が混在していて
  そのまわりを静かな闇が包んでいる
  それはゆっくりと言葉になってゆく
  饒舌から沈黙へ
   あるいは沈黙から饒舌へ

  近づくと
  その闇はいつでも溶けそうなのに
  そこには昔の人たちの姿が立ち並び
  壁面のように君のまわりに立っているのだ
  どいてくれないか その闇の番兵たち

  わたくしたちは
  地下の喫茶店に下りてゆき
  地球の芯の真上に腰をおろして
  世界を草のように食みながら
  やさしい会話を交わすことができる

  一五〇年の勤務者と
  懐かしい暗黒の街へ出ると
  闇はわたくしたちの孤独を新しくして
  お酒を酌み交わすのだった
  乾杯!生きることはそれに集約されるね

  怜悧な星たち
  夜の地上はみだらな光を散りばめている
  てらてらした草は
  たえまなく生えてくる
  目的のない潔さ

  暗中のなかに見る永遠の帰宅の仮説
  わたくしたちは消えてゆきそうな素足から
  現実の靴を脱ぎすてて
  果てしのない独り言を
  睡魔が断つのを待っている


  (二〇〇六年。草原詩社発行・星雲社発売)
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